UNESCOは、ESD for 2030 実施を支援するために「ESD-Net 2030」という新しいグローバル・ネットワークを立ち上げ、2023年には各リージョン会合が実施されました。そしてリージョン会合の結果を踏まえたグローバル会合が12 月18 日~20 日にユネスコ及び文部科学省共催、国連大学協力で約80か国の参加を得て開催されました。
 今回のコラムでは、グローバル会合にご出席された静岡大学 教授 田宮 縁 氏に、当日の議論についてご報告をいただきました。


ESD-Net 2030 Global Meeting 報告書

田宮 縁 (静岡大学)

はじめに
 2023年12月18~20日、第1回「ESD-Net 2030グローバル会合」が国連大学にて開催されました。この会合の目的は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の文脈におけるESD for 2030の各国の取り組み、傾向・動向、イノベーションの実施状況や進捗状況を共有し、国連教育変革サミット(2022年9月)のフォローアップを行うとともに、2024年から2025年にかけての行動のポイントについて議論することにありました。共感、理解、行動に関する資質・能力の重視が通奏低音をなしている会合でしたが、特に印象に残った2つのことについて書き記します。

批判的に物事をみる賢明さ
 VUCA時代において私たちが生存していくため、ESDはより学際的、かつ戦略的なアプローチに変革していく必要にせまられています。18日午前中に行われた「プレナリーパネルディスカッション: 共に教育を変革する」では、さまざまな文化的、専門的な背景を持つESDの青少年活動家と研究者が、何を変える必要があるのか、何を変えるべきではないのか、そして生活をより良いものに変えるにはどうすればよいのかということについて議論しました。
 特に私が注目したのは、ショーン・ヒューズ氏の発言です。彼は、ミネルバプロジェクトのパートナープログラムのシニアマネージャーをされているとのことでした。ミネルバプロジェクトとは、世界で最もイノベーティブな大学にランクされたミネルバ大学に教育カリキュラムや教授法、また技術的プラットフォームを提供している組織といわれています。
 彼は、「AIでできることを学んでも意味がない」というところから話を始めました。また、「AIで提供されたことを無批判に受け入れてはいけない」ということも強調されていました。教育がAIに支配されてしまうと、多様性、学習者の興味や疑問の喪失は免れないからです。それを回避するためには、まずは、教師自身が「学際的アプローチ」や「スキルベース」の重要性を理解し変わることが大切だと語られていました。
 一方、彼は、AIは優れた教育ツールとなりうる可能性もある、例えば、特別支援教育や恵まれない立場にある人々に対しては、学習者のニーズに合わせていくことが可能なのではないかとも言及していました。
 批判的に物事をみる賢明さをいかに育んでいくのか、ポストAI時代に向けて組織的、かつ教育的な実践を構築していくことが求められているとあらためて感じました。

教師の知見とセンスを磨く
 2015年、COP21で採択された「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に保ち、できれば1.5度に抑えることを目標としました。2度を超えたと仮定すると、洪水では対策をとらなければ被害が最大2倍に増加、食糧危機のリスクが増すともいわれています。20日の「セッション VI-E: 気候変動教育を推進するための革新的なカリキュラムと教育的アプローチ」では、パネリストからの気候変動教育に関する実践報告後、グループで新たなカリキュラムについての討議がなされました。
 実践報告の中で、及川幸彦氏が「日本でも気候変動教育の実践は20%に過ぎない」という発言をされていました。従前より環境教育という文脈の中で多くの実践が報告され、さらに現行の学習指導要領には前文では、「持続可能な社会の創り手」の育成が求められており、各教科の教科書にもその理念が反映されていると考えていた私にとって、衝撃的な数字でした。
 その解決策として、リヴリーン・K・カーロン氏は、身の回りで起こっている課題を取り上げるとわかりやすい、例えば、気候変動による地域の農業の変化といったことを取り上げていくことが肝要であると述べられていました。同じ国であったにしても地域により状況も違います。いわゆる「自分ごと」として子どもが学習に取り組むためには、ローカルからスタートすることが基本で、そのための教師教育は欠かせません。
 各教科には目標があり、それに基づいた内容や教材があります。そこで得られた知識と身の回りで起こっている課題を、子どもが結びつけられるように導くことが教師の役割であり、教師の知見やセンスに委ねられているのではないでしょうか。

おわりに
 「ESD-Net 2030グローバル会合」では、参加者の国々での状況や取り組みを拝聴し、多くのことを学び、考える契機をいただきました。また、ペーパーレスという運営方法や各国のゲストへのホスピタリティも勉強になりました。貴重な機会をいただけたことにあらためて感謝申し上げます。


DATA  
イベント名 ESD-Net 2030 Global Meeting
開催日時 2023年12月18日(月)〜20日(水)
会  場 国際連合大学
執  筆 静岡大学 教授 田宮 縁(2023年12月現在)

※ ESD-Net 2030 Global Meetingについての詳細はこちら(英語のみ)