ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)が2022年度より手掛ける「インクルーシブな地域づくり推進事業」では、学校、政府、民間企業、市民社会等の多様なステークホルダーの協働を通じてどのようにインクルーシブなコミュニティを実現・推進することが出来るか、国内外の事例研究と学び合いを重ねてきました。実施3年目を迎えるにあたり、これまでの事業成果と今後の活動予定についてご紹介します。
本プロジェクトは、文部科学省委託「ユネスコ未来共創プラットフォーム事業(海外展開を行う草の根のユネスコ活動)」の一環として実施されてきました。ACCUが全体の企画・運営を担い、神奈川県愛甲郡愛川町でインクルーシブな学校開発に取り組む「愛川プロジェクト」(日本)、難民を助ける会(AAR Japan)プノンペン事務所によるインクルーシブ教育推進プロジェクト(カンボジア)、PILCD(People’s Initiative for Learning and Community Development)の災害リスク低減と気候変動に対するコミュニティ能力構築プロジェクト(フィリピン)が参加しています。プロジェクトの経験を広く共有し、多くの国で類似の取組が実施されることを最終目標としています。
事業1年目には、ACCUの事業担当者が参加国を訪れ、各パートナー団体の取組についての現地調査と今後についての協議を行いました。その後、2023年1月にカンボジアのプノンペンで開催された地域会合では、参加者により「持続可能でインクルーシブなコミュニティのための枠組み案」が共同で作成されました(図)。
2年目の2023年は、前述の枠組みを基に、各団体がそれぞれにインクルーシブな地域づくり実践のアクションリサーチを実施しました。2023年11月にフィリピンのカルバヨグで開催した地域会合では各団体がアクションリサーチの中間報告を行い、議論を深めたほか、コミュニティ関係者を広く招いたアドボカシーフォーラムも開催しました。その後も引き続きアクションリサーチが各地で実施され、2024年3月には最終報告の場を設けました。
2023年の地域会合では、PILCDのプロジェクトに関する理解を深めることを目的に、参加者は対象地域であるバゴンゴン島を訪れる機会を得ました。このプロジェクトでは、漁業・水産養殖と水産加工技術を通じた災害リスク低減と気候変動に対するコミュニティの能力構築に取り組んでいます。
以下、地域会議に参加したプロジェクト関係者のコメントを一部抜粋してお届けします。
滝坂信一氏、愛川町プロジェクト
国際連合が「万人のための社会(インクルーシブな社会)」を提案し取組が始まって30年が経ちます。その理念は「あらゆる市民のニーズが計画立案と政策の基礎となる」ということであり、個人、社会、行政など各位相の大きな発想転換と持続的な取組を求めるものです。「学校」は社会の仕組みであり、その社会に多数として流通する認識を反映して成立します。同時に、一人ひとりには日常の中で感じる「ありたい姿」や「あってほしい姿」があり、それは制度や社会実態とは異なっています。今回の会合は、それをどのように調整しインクルーシブな社会をめざして継続的な取組にしていくか、そして「地域社会」を舞台として一人ひとりが自分のこととしてそれに取り組むか、その重要性と難しさを再認識する機会となりました。
リナ・エム(Rina Em)氏、AARプノンペン事務所
フィリピンではPILCDの活動など新しいことを学ぶことができて楽しかったです。彼らがコミュニティ内での回復力(レジリエンス)を見つけ、地域の人々が質の高い生活を送ることを支援する様子を見学することができました。PILCDが大学と協力して、塩づくりや魚の燻製器械などのリソースと知識とを共に提供していることを知りました。また、コミュニティはハザードマップの作成にも関与しています。私自身も、コミュニティのレジリエンス、リソース、そして現実的に何ができるかを考えたいと思います。AARチーム内やあらゆる場所でフィリピンでの学びを共有し、プロジェクトの対象コミュニティを支援するために協力していきます。AARとしてステークホルダーとの議論に参加し、コミュニティの強みを見つけて、彼らが幸福に暮らせるような支援に引き続き取り組んでいきたいです。
向井郷美氏、AARプノンペン事務所
各実践者の発表を通して、各国異なる状況で特有の課題があること、それに対して、各自が働きかけるべきステークホルダーや活用すべきリソースを見極めながら工夫していることを学びました。カンボジアでも取り組める活動のアイデア(地域にあるリソースマップの作成など)が得られたことに加え、参加者からの質問(保護者の役割が明確になっているか、最終的な裨益者である子どもの「主体性」への取り組みは?など)は、改めてこれまでの取組を振り返るきっかけとなりました。頂いた質問への対応や取組のアイデアを地域住民と話しながら、形にしていきたいです。
ラモン・マパ(Ramon G. Mapa)氏、PILCD
地域会合では、さまざまな文脈でインクルージョンと持続可能性を推進する組織が一堂に会することができ、非常に重要で示唆に富んだものでした。プロジェクトの経験を共有し、意見交換やフィードバックを得ることにより、現在の取組を振り返ることの重要性を再認識しました。地域会合からは具体的に以下の学びを得ました。
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- 他のグループや同様の経験を持つ個人からの経験の共有やフィードバックからは、これまで見落としていた問題や失敗、課題についての洞察を得て、弱点領域を特定し、これらに対処するための知見を得ることができる。状況の変化や新たな課題に対応するための個人または組織としての戦略を練り直すことも可能となる。
- 持続可能な開発へ向けた取組の成果に影響を与えうる文化的、社会的、文脈的要因を理解するためには、多様な経験から学ぶことが有効である。これらの理解は、特定のグループやコミュニティ向けのプログラムや活動を設計するにあたって重要となる。
- 今回のような地域会合は、さまざまなステークホルダー間の将来的な協力のプラットフォームとなりうる。多元的な利害関係者やセクター間の協力は、包括性と持続可能な開発に関する多面的な課題に対処する上で重要である。
本プロジェクトの最終年となる2024年には、各パートナー団体のアクションリサーチ結果に基づき、「持続可能でインクルーシブなコミュニティづくりの枠組み」を完成させ、同じようなプロジェクトに関わる実践者向けのリソースパックにまとめ広く共有する予定です。本プロジェクトに関する最新情報にご期待ください!
プロジェクトDATA | |
タイトル | ユネスコ未来共創プラットフォーム事業(海外展開を行う草の根のユネスコ活動) |
「インクルーシブな地域づくり推進事業」 | |
実施期間 | 2022年7月~(2024年3月現在) |
実施団体 | ユネスコ・アジア文化センター(ACCU) |