ユネスコ未来共創プラットフォーム事業では、2024年度「海外展開を行う草の根のユネスコ活動(再委託)」についての公募を行い、国立大学法人東海国立大学機構・名古屋大学が受託され、2月末日まで事業を行いました。今回のコラムでは、名古屋大学に、実施した「アジアにおける産学官連携の包摂的『持続可能な教育ネットワーク』構築のための国際ワークショップ」事業についてご紹介頂きました。

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1. はじめに

現在、教育の包摂性と持続可能性は、世界的に重要な課題となっています。特に、アジア地域では、社会的・経済的格差、多様な文化的背景を持つ学習者の存在、急速なデジタル化など、多くの課題が存在しています。こうした状況に対応するためには、産・学・官の連携による持続可能な教育ネットワークの構築が求められます。

本事業では、ユネスコ未来共創プラットフォームの枠組みのもと、日本とバングラデシュの教育関係者が協力し、教育の包摂性を高めるためのワークショップを開催しました。日本では2024年12月に東京で、バングラデシュでは2025年2月にダッカで実施し、それぞれの地域における実践的な知見を共有しました。ワークショップでは、日英の同時通訳が提供され、日本とバングラデシュの参加者が言語の壁を越えて活発に議論できる環境が整えられました。これにより、異なる教育システムの知見を効果的に交換し、より実践的な議論が可能となりました。

本コラムでは、ワークショップを通じて得られた学びや、産・学・官の視点からの示唆、そして今後の展望について述べます。

ワークショップの様子(日本)

2. 日本とバングラデシュにおけるワークショップの概要

◆ワークショップの目的とテーマ
本ワークショップの目的は、アジア地域における持続可能な教育ネットワークの構築を目指し、多様なセクターが連携して教育の包摂性を向上させることでした。特に、教育政策、デジタル教育の活用、地域社会との連携に焦点を当て、日本とバングラデシュ双方の事例を比較しながら議論を深めました。

◆登壇者と参加者
日本のワークショップでは、民間企業、大学研究者、国際機関の代表が登壇し、研究、企業の社会貢献活動、教育研究、政策立案の観点から教育の未来について意見を交わしました。一方、バングラデシュのワークショップには、大学の研究者、現場の教員などが参加し、特に地域に根ざした教育活動や、教育の質を担保するための教員研修について議論しました。

両ワークショップには、それぞれ100名以上の参加者が集まり、対面とオンラインを併用したハイブリッド形式で実施されました。

発表の様子(日本):登壇者 Md Jahangir Alam氏 ダッカ大学日本学科研究科長

ディスカッションの様子(日本)

3. 産・学・官の視点からの学び

① 産業界の視点:企業の役割と教育支援
バングラデシュでは、民間企業が教育支援活動を行うケースが増えています。特に、ICT企業がデジタル教材を開発し、遠隔地の学校に提供する取り組みは、教育の機会均等に貢献しています。また、日本企業のCSR活動として、奨学金制度や技術教育の提供が進められている点も重要な示唆を与えています。

② 学術界の視点:エビデンスに基づく教育政策の重要性
研究機関が提供できるのは、教育の質を向上させるためのデータと分析です。ワークショップでは、日本とバングラデシュの教育制度の比較を通じて、教育政策をエビデンスベースで構築することの重要性が強調されました。特に、アジア地域における学力格差の要因分析や、インクルーシブ教育の効果測定について議論がなされました。

③ 国際機関の視点:持続可能な教育ネットワークの構築
国際機関は、教育の持続可能な発展を支援するための枠組みづくりや、資源の配分、政策の調整を担っています。本ワークショップでは、ユネスコやその他の国際的な教育機関が果たす役割についても議論が交わされました。バングラデシュにおいては、国際機関が教育支援プログラムの実施や技術支援を行い、特にデジタル教育や教員研修の分野で重要な役割を果たしています。また、日本においても、国際機関との連携を通じて、包摂的教育の実践に関する知見を共有し、政策や現場での取り組みに活かす動きが進んでいます。

ワークショップでは、国際機関と産・学が連携し、各国の知見を統合することで、より効果的な教育支援の仕組みを構築できる可能性が議論されました。特に、国際的なネットワークを活用し、異なる国や地域の成功事例を相互に学ぶことが、持続可能な教育の発展に寄与することが強調されました。

 

4. ネットワーキングを通じて見えてきた展望

ワークショップを通じて、日本とバングラデシュの教育機関や行政、企業の間で新たな協力の可能性が見えてきました。特に、以下のような展望が期待されます。

◆ 大学間の共同研究
包摂的教育の効果測定に関する共同研究プロジェクトの立ち上げ
◆ 企業と教育機関の連携
デジタル教材の共同開発と実証実験の実施
◆ 国際機関の連携の促進
ベストプラクティスの共有と相互に学び合う枠組みの構築

また、今回のワークショップの一環として訪問したファイザール・ラーマン・アイディアル・スクールでは、地域社会と学校が連携しながら教育活動を推進している様子が印象的でした。特に、地域住民が積極的に学校運営に関与し、国際機関とも連携しながら教育の質向上に取り組んでいる姿勢は、日本を含む他国の教育システムにも示唆を与えるものでした。

ワークショップの様子(バングラデシュ)

学校訪問時の様子(バングラデシュ)

5. おわりに

本ワークショップを通じて、日本とバングラデシュの産・学・官の関係者が一堂に会し、教育の包摂性を高めるための具体的な取り組みについて議論を深めることができました。産・学・官の連携が強化されることで、教育の持続可能性がより高まることが期待されます。
今後も、このネットワークを基盤とし、さらなる共同研究や実践的なプロジェクトを推進していく予定です。また、今回のワークショップの成果を活かし、今後の活動にもつなげていきたいと考えています。

ワークショップ集合写真(バングラデシュ)

◆ 事業報告書(デジタル版)のダウンロードはこちら
本ワークショップの詳細な報告書をデジタル版で作成しております。より詳しい情報をご覧になりたい方は、以下のリンクよりダウンロードしてください。

事業報告書(レポート)

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