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リテラシーを地域で育む ~夜間中学の取組から~

毎年1月24日は「教育の国際デー」であることをご存知でしょうか。ほかにも、9月8日の「国際識字デー」など、様々な国際デーがあります。詳細はユネスコHP「国際デー」一覧(英)をご覧ください。

今回のコラムは「教育の国際デー」に寄せ、リテラシー促進に関する「地域の取組」というテーマについて深めます。


リテラシーを地域で育む ~夜間中学の取組から~

新井真帆(ユネスコ・アジア文化センター)

ユネスコ・アジア文化センターは、ユネスコや各国教育省、ユネスコ国内委員会、非政府組織等との協力のもと、1980年代はじめより識字教育の普及に取り組んできました。現在は、カンボジアにおいて母子保健をテーマとした識字教育支援事業1を実施しています。また、識字教育にとどまらず、生涯学習社会の実現を目指して、ノンフォーマル教育や成人教育、社会教育といった視点から、研修の実施等のさまざまな教育協力の取組を進めています。

ノンフォーマル教育研修2において協力をいただいた「夜間中学校と教育を語る会」が主催するスピーチ大会をもとに、ユネスコのいう「リテラシー」について考えてみたいと思います。

 

「夜間中学校と教育を語る会」が主催する「第14回 花咲け出愛 スピーチ大会」は都内にて開催され、夜間中学関係者が集いました。スピーチ大会の第一部では、公立夜間中学の卒業生や自主夜間中学に通う学習者のスピーチ、計8本が披露され、それぞれの夜間中学での経験、そしてご自身の人生についての語りがありました。第二部では、自主夜間中学の支援者によるスピーチと質疑応答・フリートークの時間が設けられました。

読者のみなさんは夜間中学をご存知でしょうか。公立夜間中学は、公立中学校のなかで、夜間に授業を行う学級のことを指します。卒業すると、中学の卒業資格を得ることができます。文部科学省の資料では以下のように説明があります。

義務教育を修了しないまま学齢期を経過した方や、不登校など様々な事情により十分な教育を受けられないまま中学校を卒業した方、外国籍の方などの、義務教育を受ける機会を実質的に保障するための様々な役割が期待されています。(文部科学省 2022: 3)

このように年齢も国籍も多様な人々が集い学ぶ場が公立夜間中学なのです。

地域のボランティアの力で自主的に運営される自主夜間中学もあります。自主夜間中学の例として、東京・墨田区の自主夜間中学「えんぴつの会」を紹介します。「えんぴつの会」は月曜日と木曜日の13時半~15時半に学習活動を行っています。ノンフォーマル教育研修にて、「えんぴつの会」に見学に行った際には、マンツーマンでの日本語学習や、クラス形式での基礎的な教科学習等、それぞれの学習が進められていました。「えんぴつの会」には、公立夜間中学の夜間週5日授業に出席することは難しいけれど週2回の自主夜間中学には通うことができる人、公立夜間中学を卒業した後も学びを続けたい人等、さまざまな学習者がいます。教えているのは、支援者と呼ばれるボランティアの人々です。

さて、「リテラシー」というと、「読み書きそろばん」を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。ユネスコのポジションペーパーでは、以下のようにリテラシーを説明しています。

リテラシーとは、多様な文脈と結びついた印刷及び書かれた資料を用いて、確認し、理解し、解釈し、創造し、交流し、計算する能力である。リテラシーは、個人が目標を達成し、知識や潜在能力を発展させ、地域やより広い社会に十分に参加することができるような一連の学習を含む。(岩規2016: 50; 原文UNESCO Education Sector 2004: 13)

この「多様な文脈」とは、「人々が日々を生きる家族や地域社会、職場等の多様な生活世界のこと」(岩規2016: 50)であるといいます。それを踏まえると、リテラシーとは、ひとりひとり個別に、自分の生活に根付いたものとして育んでいく必要があるということがわかります。

さらに、リテラシーの概念で重視されているのは、「単なる読み書きの技能や知識の習得ではなく、それらの技能や知識を使って、例えば自身の目標を達成したり、さらなる知識や潜在能力を開発し、主体的に社会に参加していくこと」(岩規2016: 56)であるといいます。スピーチ大会では、夜間中学で学習した知識等を用いて、自分の生活を切り拓いていく経験が語られました。スピーチをするということ自体、自分の経験を振り返り理解して他者に伝えるというリテラシーのあらわれであるとも感じました。

では、そのようにリテラシーを育んでいくことを可能にする関わりあいや人間関係とはどのようなものなのでしょうか。スピーチ大会第二部では、そのことを考えるヒントを「えんぴつの会」の支援者・庄司匠さんのスピーチから得ました。

庄司さんのメッセージは主に二つありました。一つ目は、学習者が「何が分からないのか」「なぜ分からないのか」を庄司さん自身が考え、寄り添うという日頃の経験についてです。学習者それぞれの事情があり時に社会の無理解がその人を深く傷つけていること、そのような人たちが必死に学びを求めて「えんぴつの会」に学びに来ていることを教えてくれました。二つ目は「自主夜間中学における人間関係」についてです。庄司さんは、学習者を「人として大切にする」「尊厳のある人として大切にする」ことが重要であると強調しました。そして、「違う立場の方もいると思うが」と前置きをしたうえで「学習者/支援者という二つの立場に分ける考え方に立たない、誰もがともに学ぶ仲間」という、ご自身が考える自主夜間中学における「人間関係」を提唱しました。「支援者も自ら真剣に学ぶことで学習者が切実に学びを求めていることがわかる」「そのことによって寄り添うことができる」という庄司さんの考えが語られました。

このスピーチからは、リテラシーを育むのは学習者だけではなく、自主夜間中学という場を共有する支援者でもあるということを考えさせられました。支援者も自身のリテラシーをアップデートすることによって、自分が暮らす地域社会や他者のことを理解できるようになっていくのではないでしょうか。地域におけるリテラシー促進のうえでは、生徒/学習者と呼ばれる人々だけでなく、周囲の人々も含めた「ともにリテラシーを育みあう」という関わりあい・人間関係が必要であるという考えに至りました。

なお、2025年「国際識字デー」に際し、UNESCOが設定したテーマは「デジタル時代におけるリテラシー促進(Promoting literacy in the digital era」でした。コンセプトノートを確認すると、UNESCOはデジタル時代におけるリテラシーを考える上で重要な5つの分野を示しており、そのうちの一つに「誰一人とりのこさないために学習者の文脈を考慮すること(Taking learners’ contexts into account to leave no one behind)」を掲げています。デジタル技術は地域に根差し、文脈に沿って利用されるときに、リテラシー促進を助けるというのです。また地域言語の使用、学習者の文化・文脈に沿った教材開発、個別化された学びの実現へデジタル技術が貢献すること等も述べられています(UNESCO 2025: 4)。今後、リテラシー促進とデジタルの活用という議論がより活発になっていくことが予想されますが、そのときにも本コラムで確認した「ひとりひとり個別に、自分の生活に根付いたものとしてリテラシーを育んでいく必要性」や「『ともにリテラシーを育みあう』という関わりあい・人間関係の必要性」が重要になっていくのではないでしょうか。今後も取組に注目していきたいと思います。

 

1妊婦さんや子育て中の女性を主な対象とした識字学習支援プロジェクト「SMILE Asia プロジェクト(Supporting Maternal and Child Health Improvement and Building Literate Environment)」。詳細はこちら(ユネスコ・アジア文化センターHP)をご覧ください。

2JICA東北より委託を受け、関東・東北地域において、海外からの研修員を対象とした研修を実施しています。


(謝辞)本コラムのご作成にご協力をいただきました、庄司匠さん(夜間中学校と教育を語る会)に感謝申し上げます。

(引用)

岩槻知也・上杉孝實「『リテラシー』の概念とその意義――社会的困難を生きる若者の学習支援を考える視点(岩槻執筆部分)」岩槻知也 編著, 2016,『社会的困難を生きる若者と学習支援――リテラシーを育む基礎教育の保障に向けて』, 明石書店, 41-66.

文部科学省, 2022, 『夜間中学設置応援資料 夜中を全国に!』(2025年9月23日取得, https://www.mext.go.jp/content/20220810-mxt_syoto02-100003094_1.pdf).

UNESCO Education Sector, 2004, The Plurality of literacy and its implications for policies and programmes: position paper (2025年9月23日取得, https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000136246).

UNESCO, 2025, Concept note on ‘Promoting literacy in the digital era’ (2025年10月10日取得,  https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000395711).

DATA
イベント名

第14回 花咲け出愛 スピーチ大会

開催日時

2025年8月16日(土)

開催会場

アクロス荒川1階ホール

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