ユネスコ未来共創プラットフォーム事務局では、2024年11月25日(月)~2024年12月1日(日)にかけて「第3回ユネスコウィーク(UNESCO WEEK 2024/25)」を開催中です!29日(金)は「国際シンポジウム」、30日(土)は「第16回ユネスコスクール全国大会」、1日(日)は「ユースフォーラム」を開催します。

「第3回ユネスコウィーク」の一環として、「ユースフォーラム」内 分科会B【防災】「ユネスコの視点で防災を学び、実践する ―未来に活きる防災―」に講師としてご登壇いただく安川総一郎(やすかわそういちろう)さんに、「ユネスコとわたし」というテーマでインタビューをしました。安川さんは現在、UNESCO自然科学局防災課長として勤務されています。


Q: 安川さん、本日はインタビューの機会をくださりありがとうございます。はじめに自己紹介として、これまでのご経歴について、またユネスコでのお仕事についてお話いただけますでしょうか。

2013年9月に、ユネスコの自然科学局に防災のスペシャリストとして、国土交通省から派遣されました。派遣在任中、今後のキャリアを考えていた際に、当時の上司が別部署に異動になり、その後任ポストに応募し、2017年にユネスコ職員となりました。現在、防災ユニット長として、ユネスコの防災関連事業の取りまとめをしています。ユネスコでは私の在籍する自然科学局のほかに教育局、文化局、海洋局、情報・コミュニケーション局にも防災のプロジェクトがあり、分野横断的に防災の取り組み進めるように各局、地域事務所の担当者と意見交換をしながら業務を進めています。

ユネスコでは8つの柱で各国支援をしており、具体的には1)科学技術(人工知能等)を活用した防災、2)早期警報、3)建物の安全性(特に地震)、4)教育分野の防災、5)文化財等の防災、6)自然を基盤とした防災、7)リスクガバナンス、8)災害後対応となっています。

また私のユニットは、国連機関の防災のユネスコの窓口をしており、ユネスコの防災業務を国連内でも周知に努めています。

私の業務は、ユニットのマネージメントとして人事計画と地域事務所への一般会計予算配分・執行管理のほか、優先分野や優先地域の選定、新規イニシアティブの立ち上げといったユネスコ防災の戦略の策定も行っています。また限りある一般会計予算を補完するため、資金調達のためのドナーとの折衝も行っています。マネージメントや戦略作りだけだと防災の知識をアップデートできないので、先導的なプロジェクトについては地域事務所における執行にも関わり、現場の勘が鈍らないようにしています。

私はもともと建築家を目指して日本の大学院でデザイン系の研究室に進学しましたが、都市開発がしてみたくなり、建設省(のちに省庁再編で国土交通省)に1998年に入省しました。日本の省庁は2,3年おきに部署を異動するので、私は都市再開発、建築基準、研究所企画部、建築士資格、国土計画、内閣府防災担当といろいろと経験させてもらいました。一見、脈絡がないようですが、今から思うと、いろんな視点から課題を見るのに役立っていると感じています。

Q:ユネスコの職員として経験した課題や困難を感じたことはありますでしょうか。今現在感じていらっしゃることでも結構です。具体的なエピソードがあれば是非教えてください。

人間関係でいうと、日本での職務に対する向き合い方と比べると、同じレベルを期待することができず、私が期待するように物事が進まず、やきもきすることがたくさんあります。その一つの原因として、時間感覚の違いがあるように思います。海外の方は全般的に、先のことであれば、締め切り間際になってから決めたらよいという感じがおおく、ぎりぎりにならないと対応してもらえないことがよくあり、いろいろ前もって計画的に進めていくのが難しいかなと感じています。

現在仕事を計画するうえで感じていることは、現場でのインパクトと対外的なインパクトをどう両立するか、です。当然、業務を通じて、対象国、対象地域の災害リスクを低減することが目標ですが、災害に対して十分に準備できていない国や地域は世界中に大変多く、ユネスコだけでできることは限られてしまいます。その一方で、私たちと一緒に仕事をし、また私たちの活動に対して資金的援助をしてもらうためには、ビジビリティが大事になります。現場でのよいインパクトを残そうとするあまりに、広報活動や大きな戦略の提示がおろそかになると、潜在的な協力者を失ってしまうというジレンマがあります。見栄えのいいプロジェクトに手を出すと、潜在的な資金協力者の目に留まりやすい一方、それでは現地で役に立つベストの解決策ではない可能性もあり、難しい選択を迫られる時があります。

Q:ではユネスコの職員として、やりがいを感じたエピソードがあれば教えてください

私の業務は世界中の途上国を対象としており、各国の課題や仕事の進め方、地域事務所の同僚の専門分野も様々です。そのため、サポート要請や機会があるごとに、どのような提案が最適かを地域事務所の同僚と議論し、プロジェクトの枠組みを考えています。この作業は非常に知的好奇心が刺激されます。また、プロジェクトを通じて現地の方に喜んでいただけると、大きな達成感を感じます。

例えば、春先に出張したルワンダでは、4年前に防災AIチャットボットのプロジェクトを実施しました。当時はコロナ禍で現地訪問が叶わなかったのですが、現地政府の方から「このプロジェクトに関わったあなたに会いたかった。省庁内ではこのチャットボットをさらに発展させたいという声が多い」と言っていただき、大変嬉しかったです。

また、先日、ブラジルで開催されたG20に参加してきました。G20の中には防災ワーキンググループがあり、ユネスコもこれをサポートしています。ブラジル政府から依頼を受け、ユネスコは自然を基盤とした防災の事例集をまとめ、10月31日に発表しました。この防災ワーキンググループの場で採択された大臣宣言において、ユネスコは特別に感謝を表されました。大臣宣言の文言は最終段階まで各国からの提案や修正が相次ぎ、調整が難航しましたが、ユネスコとしてG20に対する貢献の大きさを強調したところ、事務局であるブラジル防災長のトップが、ユネスコを含む3機関に対して特別の感謝を表す文章を提案してくれました。他国からも異論が出ず、そのまま宣言文に反映され、これまでの苦労が報われたと感じました。

プロジェクトの実施に留まらず、各国や各部署が行う防災業務を俯瞰し、ユネスコの防災の将来の道筋を考えることにもやりがいを感じます。

Q:ユネスコなどの国際機関で働くことを希望する方々に向けて、何かアドバイスはありますか。

防災ユニットにはこれまで多くのインターン生がやってきて頑張ってくれています。何割かの方は、ユネスコで引き続き仕事をしたいと強く願っていますが、なかなかチャンスがなくユネスコを去っていきます。私がいつも彼等に伝えているのは、「ユネスコだけが就職先ではない、さらにいえば、防災だけがあなたの仕事ではない。」と伝えています。特に今の若い方を見ていると仕事の機会がすごく少なく見えるので、何かチャンスがあれば、それをつかんでまずは全力でやりなさいとアドバイスしています。そこで新たな関心が生まれるかもしれないし、仕事により金銭的な余裕ができた段階で、やりたかった別の仕事の機会を探すこともできるのではないかというのが私の考えです。

ユネスコ以外の国際機関で働くことを希望する方々にも同じメッセージになると思うのですが、語学はとても大事だと思います。日本の方は、専門性や仕事のディテール、責任感の強さはしっかりしているのですが、それを外国語(主に英語)で説明できないため、十分に評価されていない残念な事例があります。専門分野のことだけでなく、日常会話において、思ってることを外国語で表現できるようにするのは大事かなと思います。

Q:今回、第3回ユネスコウィークのユースフォーラムにご登壇いただきますが、ユネスコの理念に共感して地域レベルのさまざまな取組、いわゆる「ユネスコ活動」に従事する方々も大勢います。そうした方々、特にユース世代に対し、ユネスコ職員として期待されることはありますか。

日本では、ユネスコといえば、文化局の世界遺産が有名ですが、その次に教育局の「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)」も注目されています。しかし、文化局には世界遺産以外にも創造都市ネットワークがあり、教育局ではAIを教育にどのように活用するかを検討するプログラムも進められています。

ユネスコには、文化局や教育局以外にも自然科学局、政府間海洋学委員会、社会・人文科学局、コミュニケーション・情報局があり、日本ではあまり知られていない多彩な取り組みが行われています。例えば、自然科学局では防災や「持続可能な開発のための科学の国際10年」といった活動、政府間海洋学委員会では「海洋の国際10年」、社会・人文科学局ではAIの倫理、コミュニケーション・情報局ではメディアが災害情報をどのように伝えるかといったテーマを扱っています。

ユース世代の方々にも、ユネスコの幅広い活動をぜひ知っていただきたいと思います。例えば、ユネスコの2024‐2025年プログラム・予算(ユネスコ文書では42C5と呼ばれます)にアクセスしていただくと、ユネスコの活動への理解が一層深まるかもしれません。本日は、私の業務について少しでもご紹介でき、このようなインタビューの機会をいただいたことに感謝しています。

Q:最後の質問です。第3回ユネスコウィークのキーワードは「持続可能で包摂的な未来の創造」です。安川さんが思い描く「持続可能で包摂的な未来の創造」とはどのような未来でしょうか。読者のみなさんに向けてメッセージをお願いします。

「持続可能で包摂的な未来」というと、多くの方が共通のイメージをお持ちかもしれません。たとえば、紛争のない世界、気候変動に対応した持続可能な社会、貧困の解消、誰もが生きがいを感じる社会、そしてきれいな空気や水に誰もがアクセスできる環境などです。しかし、そのビジョンを限られたリソースの中でどのような優先順位で、どのように実現していくかについては、まだ共通の見解が存在していないように思います。

私自身も答えをすべて持ち合わせているわけではありませんが、科学や技術はこれらの実現に向けた大きな可能性を秘めていると確信しています。特に最近、人工知能(AI)がさまざまな分野で活用されるようになりましたが、それに不安を感じる方も多いでしょう。科学技術の進展については、当然その在り方について慎重に議論する必要がありますが、その議論が科学技術の発展そのものを妨げてしまうのは本末転倒だと思います。

持続可能で包摂的な未来は一人ひとりの力と意識が重要です。ユネスコウィークをきっかけに、皆さんがこの未来について考え、それぞれの行動につなげていただけることを願っています。


「第3回ユネスコウィーク」各イベントの詳細や参加申し込みは特設サイトをご覧ください!:
https://unesco-sdgs.mext.go.jp/unesco-week-03

DATA
インタビュー 2024年11月実施

 

記事をシェアする