毎年10月5日は「世界教師デー」であることをご存知でしょうか。ほかにも、9月8日の「国際識字デー」や1月8日の「教育の国際デー」など、様々な国際デーがあります。詳細はユネスコHP「国際デー」一覧(英)をご覧ください。
「世界教師デー」は教員がいかに教育の変革を推進しているかを記念するだけでなく、教員の才能や使命を十分に発揮するために必要なサポートについて考え、さらに教職という職業の未来を世界規模で再考する日でもあります※1。
今回のコラムは「世界教師デー」に寄せ、教職員による現地国際交流と帰国後の「地域の取組」というテーマについて深めます。
海外派遣プログラム参加者座談会
ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)では、未来を担う子どもたちを育む「先生」 を対象とした国際交流プログラムを長年実施しています。ユネスコ及び国際連合大学の事業として 2001年より開始し、2018年度からは文部科学省の委託事業として引き継がれ、25 年以上にわたって継続してきました。このたび、過去の海外派遣プログラム参加者である3名の先生方にオンラインでお集まりいただき、所属先の学校種や地域、また、派遣された国の違いもこえて、同プログラムでの経験や学び、その後の教育実践について熱く語っていただきました。
なぜ教職員国際交流?三人の出発点
Q(ACCU):はじめに、先生方が本プログラムや学校での国際交流に興味をもったきっかけを教えてください。
西條 翼 先生(久喜市立菖蒲中学校教諭、2024年度中国派遣プログラム参加者):私は、学校の回覧板でした。たまたまこのプログラムの資料が目に留まり、応募しました。中国の方は英語が堪能というイメージがあって、その背景となる教育に興味があり、中国という国を自分の目で見てみたいとも思いました。

中国の中学生に話を聞く
岡 真夕子 先生(愛知県立明和高等学校教諭、2024年度タイ派遣プログラムに参加):昔から海外に興味があり、高校では英語科を担当していますが、このようなプログラムに自分が参加できるとまでは考えていませんでした。けれど、隣の席の同僚が中国派遣プログラムに参加したことをきっかけに、興味が高まりました。これまで中学校や定時制高校への勤務も 経験し、外国にルーツを持つ子を含め、様々なタイプの生徒に対するアプローチを学んできたので、一度総括し、海外の教育制度を実際に見てみたいと考えました。長い間働いていると自分の常識にとらわれてしまうので、そこから一回抜け出したいという気持ちもありました。
上田 敏廣 先生(中央区立佃島小学校校長、2024年度韓国派遣プログラムに参加):私はヨーロッパでの海外赴任経験から、外国との交流は非常に大事なものだと考えていました。ただ、アジアの国には渡航したことがなく、我々の教育を今後どうしていくか考えるには現地の学校現場に赴き、外から日本を見る経験が大事だと思い、参加しました。韓国の先進 的なICT教育にも関心がありました。
価値観が揺さぶられた瞬間
Q:プログラムで最も印象に残っている出来事は何ですか。
岡先生:タイの国内トップ校や聾学校、地域産業を支える専門学校など様々な学校種を見学する中で、タイの教育省が何を重視しているかがよく見えたことです。世界と競争し、科学や数学の分野で成果を上げていくことと、幸福度を上げ、全員に行き渡る教育をするという二本柱があり、特に、幸せになるために学ぶ「ハッピーラーニング」を掲げている点が日本の教育と比較しても特徴的で興味深く感じました。交流の中で、タイの先生方が「どうすれば教育をより良くできるか」を 真剣に考えていることも伝わってきて、私自身、その純粋な気持ちに感銘を受けました。

タイでの文化交流(着付け)
西條先生:私は移動中のバスの中での時間が特に印象に残っています。プログラム参加者の中で私は最年少だったのですが、 全国から集まった様々な学校種・立場の先生とじっくりお話しする中で、多くの学びを得ることができ、自分の価値観や教育実践を見直すきっかけになりました。帰国後、総合的な学習の時間の主任となり、参加者の先生方に頂いたアイデアを参考に、生徒がより主体的に学べる探究学習を軸にした内容へと刷新しました。この実践は埼玉県の東部地区の研修で発表する予定なので、今後も広く発信したいと思っています。
上田先生:私の場合はホームビジットですね。学校訪問の後、生徒さんのご家庭に招いていただいて一緒に夕飯を食べたのですが、インターネット等では分からない韓国のご家族の実際の暮らしを見ることができてとても勉強になりました。先生同士の交流も良かったです。韓国も日本も、不景気や少子化、 受験競争の激化など共通点が多いので、教師としての悩みや仕事の喜びを共有できたことは、本当に得難い経験でした。
先生たちはどう変わった?
Q:プログラムへの参加を通じて、ご自身の考え方や行動にどのような変化がありましたか。
岡先生:以前から、教育現場で疑問に思うことがあれば少しでも解決に向けて行動するよう心がけていましたが、参加後には、 何でも「前向きに挑戦する」ようになったことが大きな変化だと思います。教員は、現場で何かを変えようとしても難しい場合が多く、これまでは少し面倒だと思うこともあったのですが、今は、多少苦労してでも身になることを得たいと考えるようになりました。そうした私の挑戦する姿勢を他の教員や生徒にも見せることで、「自分も何かやってみよう」と思えるきっかけになれたらいいなと思います。
上田先生:私は管理職として、先生方が夢や目標に向かって挑戦できるような環境を整えたいと考えるようになりました。校長という立場でも、こうしたプログラムに参加できることを示せば、先生方も「挑戦してみよう」と思いやすくなりますから。教員はどうしても、目の前の子どもたちのために現場を離れられないと考えがちです。でも、外の世界を見て、その学びを学校や子どもたちに還元することは大きな刺激になると思います。何より、挑戦する背中を見せることこそが、教員の大きな役割だとも思います。
西條先生:先ほど岡先生が仰っていたように、教員は変化を起こそうと思っても難しいことが多いですよね。私もこれまで「子どもたちのためにもっとできるこがあるのではないか」と 自問自答することが多々ありました。けれど、プログラムで出会った先生方から様々な視点を頂いたことで、自分の考えの前提を見直し、教育観をアップデートできたように思います。 帰国後、地域の教育委員会にコンタクトを取って相談するなど、以前より積極的に行動するようになったのは大きな変化だと思います。主体的に学び、行動することの面白さを実感できたことが、一番の収穫でした。
学校はどう変わった?
Q:先生方の変化は、各学校での教育実践につながっているのではないかと思います。実際にどのような実践をされたかお伺いしたいです。
上田先生:ご縁があり、様々な形で韓国との交流を継続しています。 韓国の先生方の視察を受け入れた際には、私が韓国で体験したことと同じように、一緒に給食を食べ、授業見学や教職員交流会等を実施しました。駐日大韓民国大使館の方と協力して夏祭りを開催したり、本校の教職員が「東京韓国学校」を訪問したりもしました。校内の国際理解教育では、昨年度に「韓国ウィーク」を設け、ハングルを学んだりK-POPダンスを体験したりしました。国際的な事柄への子どもたちのハードルは下がってきていると感じます。交流で特に大事にしている のは、相手がどんなことを望んでいるか、事前に丁寧にヒアリングを行い、できる限りその要望に応えることです。ニーズに合わなければ次の交流につながらないですよね。遠慮なく意見交換できる関係性作りとつながりを大切にする姿勢が大切だと思っています。

佃島小学校での韓国教職員訪問受入れ(日本の給食体験)
西條先生:私は残念ながら中国との交流は実現しなかったのですが、ACCUにインドの学校を紹介いただきました。日本にいると英語を使う必要性を感じることが少ないので、英語を話さざるを得ない状況を作りたいと思い、自国の文化や学校生活を英語で紹介し合うオンライン授業を行いました※2。本校生徒は合わせて約130名参加しました。準備段階は両国の時間感覚や通信環境の違いなど苦労した点もあり、また、生徒たちも最初は「恥ずかしい」「自分の英語が伝わらなかったらどうしよう」と不安を口にしていました。そこで、本校の生徒同士で、相手をインドの生徒だと思って何度も練習して、自信をつけてもらいました。実際に交流してみると、生徒たちは英語が伝わった実感を得たようで「次はいつやるんですか?」と、積極的な声が聞こえてきたのは嬉しかったです。
岡先生:私は海外と日本の生徒がペアを組み、学校生活や日常について手紙に書いて送り合う「手紙プロジェクト」を企画しました。本校は海外との交流が盛んですが、選ばれた生徒しか参加できないことも多いので、一学年の生徒全員に海外とのつながりをもってほしいと思い、先ほど話した中国派遣に参加した同僚と一緒に取り組みました。ただ、生徒全員となると各教員の足並みを揃えるのも一苦労で、海外生徒とのペア確保にも先生方のつてを頼って、オーストラリア・ドイツ・ 中国などいろんな国に協力をお願いする必要がありました。 私の授業ではタイの日本語クラスの生徒と手紙を交換したところ、英語と日本語両方で書かれていて、生徒たちはびっくり仰天していました。もっと英語を頑張りたいと刺激を受けた子も多かったです。高校では、時間割等の関係でオンライン交流も難しいことが多いのですが、手紙だと時差の問題もないですし、デジタル化が進む今、手元に「物」が届くのは良いことだと思います。手紙の向こうに「体温のある人」がいることを感じてもらいたいです。
Q:同僚の先生方からの反応はいかがでしたか?
上田先生:私の方でできることは引き受けていますが、先生方にお願いしなければいけないことがあるのは確かです。その際「尻込みしないで挑戦することはいつか管理職になった時にきっと役に立つよ」と伝えていますが、本心は分かりません(笑)。 ただ、先生方は本当にすごいなと思います。最初は戸惑っていても、いざ始まるとしっかり物にして、楽しんでいる。例えば日韓教職員交流でキンパ(韓国の海苔巻き)作りをした際、 最初は2~3人集まればいいかなと思っていたら、たくさんの先生が参加してくれました。こうした経験が思い出として先生方の中に残って、他校に異動しても「国際交流は楽しい」と 思えるようになってくれればいいなと思います。
西條先生:インドとの交流では、管理職や同僚の先生方から面白そうな実践だねと、背中を押していただきました。実は、管理職の先生のお一人が、私のプログラム参加の話をきっかけに 海外派遣に関心をもたれて、別団体のプログラムに参加されたんです。自分の挑戦が周りの先生方に少しでも良い影響を与えることができていたら嬉しいですね。
先生たちのこれから
Q:先生方の今後の目標ややってみたいことをお聞かせください。
西條先生:今回、上田先生や岡先生のお話を伺って、私も様々な国と交流してみたいと思いました。単発でも構わないので、まずは子どもたちが国際交流する機会をできるだけ多く作りたいです。私自身も多くのことを吸収しながら、日本の教育をより良くすることに少しでも貢献したいです。
岡先生:私も、今年度も手紙交流ができたらいいねと話しているところです。それと、西條先生のようにきっかけをつかんで、 更に他の国とも交流してみたいですね。本校の近くにあるネパールのカレー屋さんが、お弁当を作ってくれたりして教員や生徒とも関わりがあるので、このつながりから何かできないかなと考えています。また、タイでAI技術の活用が進んでいることを目の当たりにしたので、私自身も学び続けていきたいと思っています。
上田先生:私は現在担任をもっていない分、一人でも多くの先生に、このようなプログラムに気軽に挑戦してもらえるような環境を作りたいと思っています。自分が様々な国と交流するというよりは、先生方にこうした機会を紹介したり、人と人 をつないだりしながら、新しい一歩を踏み出す後押しができたら嬉しいです。
このたびは貴重なお話をありがとうございました!
※1「世界教師デー」(日本語仮訳)より引用。原文はこちら:ユネスコHP「世界教師デー」(英)。
※2 交流の様子は令和7年度初等中等教職員国際交流事業実施報告書(p.14)でもご紹介しています。
DATA
| 関連ページ | ユネスコ・アジア文化センターの「教職員の国際交流」詳細についてはこちら(ユネスコ・アジア文化センターHP) |
|---|---|
| 執筆 | ユネスコ・アジア文化センター(機関誌『ACCU news No.422』より一部抜粋・編集) |