ユネスコ未来共創プラットフォーム事務局では、2024年11月25日(月)~2024年12月1日(日)にかけて「第3回ユネスコウィーク」を開催中です!なお29日(月)は「国際シンポジウム」、30日(土)は「ユネスコスクール全国大会」、1日(日)は「ユースフォーラム」を開催します。
「第3回ユネスコウィーク」の一環として、「ユネスコとわたし」というテーマで、元ユネスコ職員の大安喜一(おおやすきいち)さんにインタビューをしました。大安さんは現在、公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター 教育協力部 部長として勤務しており、われわれユネスコ未来共創プラットフォーム事務局の一員でもあります。
Q:はじめに、これまでの経歴と、ユネスコ勤務当時のお仕事について教えてください。
私はもともと法学部の学生でした。国際協力には特に関心がなく、英語も熱心に勉強していたわけではありません。外国とのつながりができたのは、学生時代に大学サッカー部の先輩からアメリカ人の留学生を紹介され、シェアハウスで一緒に生活したことがきっかけです。そのとき、「英語はコミュニケーションの道具に過ぎない」という割り切りができました。「何を話すか」「何をするか」を重視し、英語力をそのためのツールとして身につけました。
卒業後は公務員として文部省関係の機関に勤め、その後、派遣職員としてユネスコのバンコク事務所で勤務しました。ここでは、「万人のための教育」や「持続可能な開発のための教育(ESD)」などをテーマに、地域づくりの学びやコミュニティ学習センター(CLC)に関する業務を担当しました。十数年間勤めたバンコク事務所はアジア太平洋地域を管轄しており、加盟国とのネットワークを活用した研修や教材開発、政府間会合などに携わりました。その後、バングラデシュのダッカ事務所に約7年間勤務し、教育省や関係機関との直接的な協働や、具体的な政策立案から地域レベルでの活動まで幅広い業務に取り組みました。国際機関ならではの多様な活動があり、とても面白い経験でした。
また、ユネスコ在職時代から日本や海外の研究者とつながり、学会にも積極的に参加することで、自分の研究テーマを深めることができました。学位論文では、日本、タイとバングラデシュにおけるCLCを題材に、住民の主体性と公共性について考察しました。
Q:ユネスコの職員として経験した課題や困難を感じたことはありましたか。またやりがいを感じたことはどのようなことでしたか。エピソードがあれば教えてください。
ユネスコの仕事は主に国際的な枠組みや方向性をまとめることです。ユニセフや国連開発計画と比べると、資金やスタッフのリソースは少ないものの、専門性を持つスタッフが多く、長期的な視点で議論を進めることができました。バンコク事務所ではアジア・太平洋47か国を対象に業務を行い、多くの国々の話を聞き、ネットワークを築けたことが大変興味深い経験でした。一方で、政策レベルでの議論が実際に学校や地域レベルでどこまで実践されるのか、その「距離感」を強く感じました。そのため、現地を訪問し、政府やNGOの方々と良好な関係を築きながら、実践と議論のギャップを埋める努力を重ねました。幸運なことに、私が勤務していた頃は日本からの信託基金が潤沢で、CLC推進をアジア・太平洋地域で展開することが可能でした。バングラデシュでは、小規模プロジェクトが地元の人々のオーナーシップを得て、事業終了後も地元資金で継続されていると最近聞きました。また近年、日本の公民館とCLC、アジアとアフリカの連携が進んでおり、ユネスコ在職時の仕事が現在にもつながっていることを、とても嬉しく思っています。
Q:現在はACCUで教育協力部長として、引き続き国内外のユネスコ関連事業に携わっておられますが、改めてユネスコを外から見て何か感じることはありますか。また、ユネスコでの経験は現在、どのように活かされているとお考えでしょうか。
帰国後、最初は大学でユネスコとあまり関係のない仕事に携わりましたが、ACCUで勤務するようになり、日本でのユネスコ関連活動がこれほど盛んなことに驚きました。ユネスコは教育、科学、文化、情報と非常に幅広い分野を扱うため、議論が抽象的になりがちです。それでも、「万人のための教育」、「ESD」や「インクルージョン」といった方向性を示すことは重要であり、その理念に共感する加盟国のリソースをより活用できればと思っています。
ユネスコでの経験から、世界には多様な人々、考え方、やり方が存在することを学びました。「こちらの常識」が必ずしも通用しないということは理屈では理解していても、実際に協力やコミュニケーションをする中でその難しさを痛感しました。また、多様な能力を持つ人々と仕事を進める際には、完璧さを追求するよりも、できることを前進させながら不足部分を補っていく姿勢が特に重要だと感じました。
Q:ユネスコなどの国際機関で働くことを希望する方々に向けて、何かアドバイスはありますか。
冒頭でも述べたように、私はもともと国際関係には関心がありませんでした。語学や異文化については、理論だけでなく実践や体験を通じてその必要性を理解できると考えます。文献や講義から得る知識も重要ですが、失敗を恐れずに海外とつながり、自分がマイノリティである状況を経験することも大切です。AIが発達してきたとはいえ、海外とのコミュニケーションは今のところ多くの場合、英語で行われます。失敗を重ねながら学ぶ姿勢が重要であり、留学やインターンシップ、海外の機関で働く機会があればぜひ挑戦してほしいと思います。また、教育や文化、科学といったさまざまな分野で、自分の身近なところから始めることも大事です。日本の状況や課題に取り組むと同時に、それをグローバルな視点で考えることが、単なる途上国支援ではない新たなアプローチになるのではないでしょうか。
Q:最後の質問です。第3回ユネスコウィークのキーワードは「持続可能で包摂的な未来の創造」です。大安さんが思い描く「持続可能で包摂的な未来の創造」とはどのような未来でしょうか。読者のみなさんに向けてメッセージをお願いします。
未来を創造していくことは、全世代の責任です。持続可能で包摂的な社会を築くには、新たに生じた課題について多面的に考え、協力して行動することが必要です。多様な人々が多様なアプローチを試み、それを互いに認め合いながら学び続ける姿勢が重要です。学歴だけでなく、成人後や社会人、退職後もアンテナを張って学び続ける「生涯学習」の観点が求められます。そのためには、多様な情報源や学習機会を活用する力、いわゆる「デジタルリテラシー」も必要です。持続可能で包摂的な社会を目指すには、一つのやり方に固執せず、多様な方法を認め合い、試行錯誤を重ねながら前進することが大切だと思います。
「第3回ユネスコウィーク」各イベントの詳細や参加申し込みは特設サイトをご覧ください!:
https://unesco-sdgs.mext.go.jp/unesco-week-03
DATA
インタビュー 2024年11月実施