こんにちは。次世代ユネスコ国内委員会委員の中村心寧です。
2025年6月下旬、中国・黒竜江省鶏西市にある興凱湖(Xingkai Lake)ユネスコエコパークで開催された「第8回東アジアユネスコエコパークネットワーク(EABRN)・若手研修者(YAR)研修」に、日本のMABユースの一員として参加しました。中国、韓国、モンゴル、カザフスタン、ロシア、日本の6か国からユースが集まり、数日間にわたって自然観察や交流を行いました。
この研修は、東アジアユネスコエコパークネットワーク(East Asia Biosphere Reserves Network, EABRN)を取りまとめるユネスコ北京事務所と、自然科学の研究機関である中国科学院(Chinese Academy of Sciences, CAS)が主催しました。自然をじっくりと観察し、学びながら、ユネスコエコパークについて理解を深めることを目的とした研修です。
MAB計画・ユネスコエコパーク・MABユースとは
MAB(マブ)計画とは、”Man and the Biosphere programme(人間と生物圏計画)”の略で、「人と自然の共生」を目指すユネスコの国際プログラムです。自然を守るだけでなく、その恵みを適切に利活用しながら、地域の暮らしを持続していくことを重視しています。
ユネスコエコパーク(Biosphere Reserve, BR)は、この理念を実践するためのモデル地域で、「核心地域」「緩衝地域」「移行地域」の三つのゾーンから構成され、「保全」「学術的研究支援」「経済と社会の発展」という三つの機能を同時に追求しています。
また、MABユースとは、ユネスコエコパークに住んだり、学んだり、働いたりしている18〜35歳の若者のことを指します。2017年の第1回グローバルMABユースフォーラムをきっかけに、欧州、南米などでは国や地域を越えたユースネットワークが形成され、政策提言やイベント開催が進んでいます。一方、日本を含むアジア・太平洋地域ではまだその動きは限定的です。私は今回の研修を、今後の東アジア地域におけるユース連携の可能性を探る機会として捉え、参加しました。

湿地の木道で水鳥を観察した
興凱湖での活動
興凱湖は中国とロシアの国境に広がる湿地と湖で、日本にも飛来する渡り鳥の重要な生息地です。両国が協力して自然保護に取り組むこの場所は、ユネスコエコパークであると同時に、ラムサール条約登録地にも指定されています。私が訪れた中国側の湖岸周辺には、大規模なトウモロコシ畑が広がっていました。
日本から興凱湖に行くには瀋陽や青島を経由する必要があり、成田空港を出発してから湖に到着するまでに約2日を要しました。日本と韓国の参加者は研修開始前日に現地入りし、夕方に一緒に湖畔を散歩しながら鳥や植物を観察しました。湖のほとりにはCASの研究施設があり、私たちはそこに宿泊しました。

興凱湖の位置
1日目:中国科学院による研究発表と地元高校生との交流
初日は、モンゴル、カザフスタン、ロシアからの参加者も合流し、午前中にCASの研究者による発表を聞きました。湖の水質や植物、鳥類の変化を長期的に観測する研究成果が紹介され、中国が科学的モニタリングに大きく投資し、力を入れていることを実感しました。その一方で、地域の暮らしや文化とのつながりが研究発表からは見えにくいことにも気づきました。ユネスコエコパークでは、生態系の保護だけでなく、地元の人々の生計や文化が自然と調和しながら持続的に維持・発展していくこととの両立を目指します。「科学と地域コミュニティをどのようにつないでいくのか」という問いは、MAB計画の理念を実践する上で欠かせないテーマだと感じました。
夕方には、地元・密山の高校の観光学科で学ぶ高校生と交流する機会がありました。興凱湖の観光事業や生態系保全と地域との関係について話を聞きたかったのですが、言語の壁もあり、十分な対話ができませんでした。改めて、現地の生の声を理解するためには現地語を学ぶことが重要であると感じ、中国語も学んでみようと思いました。
2日目:自然観察と各国ユースの即興セッション
午前中は湖畔の木道を歩いて自然観察を行いました。興凱湖は中国東北部に位置し、本来は夏でも涼しい気候のはずですが、この研修中は例外的に厳しい暑さとなりました。建物にはエアコンがないため、お昼前には活動を切り上げることになってしまいました。思いがけない形で、ここでも異常気象を実感することとなりました。
午後はプログラムがなく自由時間が多かったため、もう一人の日本からの参加者とともに、参加者同士で日頃の活動を紹介し合う場を設けてはどうかと、他国からの参加者に提案して、即興の活動発表会を開きました。各国のユネスコエコパークや、そこでのユースの活動が紹介され、私は日本人向けにMAB ユースの活動を紹介するウェビナーを実施した経験を共有しました。参加者の中にはSNSでその案内情報を見ていた人もいて、「ユネスコ本部はどのように支援しているのか」といった質問も寄せられました。

湿地には生物観察のための木道が敷かれている

即興セッションで日頃の活動を紹介し合った
3日目:興凱湖の観光スポット訪問
最終日は、興凱湖博物館を訪れて、地形や動植物、地域の民俗に関する展示を見学しました。湖の成り立ちや生態系の歴史、地域の人々が自然とともに生きてきたことがわかりやすく展示されていました。
湖周辺は広大な農地で、市街地からも距離がありますが、博物館はたくさんの来訪者でにぎわっていたのが印象的でした。午後はボートで湖上に出て、水鳥を観察したり、大きな展望台に上って景色を眺めたりしました。展望台や湖のビーチにもたくさんの観光客がいて、ユネスコエコパークが観光地としても機能している様子を実際に見ることができました。夜には、研究所の近くにあるバーベキュー会場で中国の串焼きを食べ、一緒に星空を見て、参加者同士の親睦を深めました。

観光地となっている展望台

博物館とビーチは観光客でにぎわっていた
実際に興凱湖を訪れてみると、写真や資料だけでは分からない景色が広がっていました。湖はとても大きく、人の気配がなく、風の音や鳥の声だけが響く静かな湿地である一方で、少し移動すると、人がたくさん集まる観光スポットでもありました。
また、興凱湖が中国とロシアの国境に位置していることも、強く印象に残っています。一つの湖を、国境を越えて共有しているものの、生態系は国境線とは無関係に連続して広がっているのだということを、肌で感じることができました。こうした場所でいろいろな国のユース同士が顔を合わせ、同じ景色を見ながら語り合えたことが、この研修の意義だったように思います。

水平線の向こう側はロシア
DATA
| イベント名 | 第8回東アジアユネスコエコパークネットワーク(EABRN)・若手研修者(YAR)研修 |
|---|---|
| 開催期間 | 2025年6月(現地研修3〜4日間) |
| 開催地 | 中国・黒竜江省 興凱湖ユネスコエコパーク(Xingkai Lake Biosphere Reserve) |
| 主催 | ユネスコ北京事務所 |
| 参加国 | 中国、韓国、モンゴル、カザフスタン、ロシア、日本 |
| 執筆 | 次世代ユネスコ国内委員会 委員(2025年11月現在) 中村心寧 |