高田中・高等学校 英語科 ユネスコスクール担当
マカイヴァ裕美子 (川口裕美子)
はじめに
8月上旬、ユネスコのカテゴリー2センターであるInternational Centre for UNESCO ASPnet (ICUA)と香港大学ユネスコ比較教育チェア(UNESCO Chair in Comparative Education)主催の教員研修に参加しました。
Intangible Cultural Heritage(以下、ICHと略す)とは、ユネスコの「無形文化遺産」を指します。今回の研修では、各国の代表者がICHを教育に取り入れた実践を共有し、互いの文化や教育実践について学び合いました。研修を主催したICUAは、中国海南省を拠点に、国際協働やイノベーションを通してユネスコスクールネットワーク(ASPnet)の強化を目指し、2021年に設立された機関です。ESD、異文化学習、社会的包摂などを推進し、生徒のウェルビーイングの向上に取り組んでいます。
研修に参加するまでの経緯
この研修に応募したきっかけは、本校高校3年コースの1年生特別選抜クラスで行っている「英語コミュニケーションⅠCS」の授業で、和食をテーマに学習していたことです。本授業では、ESDに関連するテーマを英語で学び、生徒の探究力と英語による発信力を育成するとともに、韓国の高校との協働学習を通してグローバル・シチズンシップの育成も目指しています。「和食」は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。一方で、日頃の生徒たちの様子から、必ずしも身近なものとして捉えられていないと感じ、伝統文化を次世代へ継承するための教育の重要性について考えるようになりました。
授業では、和食について学び、料理を一つ選んで英語で紹介する「Washoku Presentation」を作成し、韓国の高校とのオンライン交流で発表しました。その後のアンケートでは、半数以上の生徒が「伝統食について学ぶことが大切であると気づいた」と回答しました。
こうした生徒たちの変化を通して、無形文化遺産を教育に取り入れることの意義を実感し、さらに専門的に学びたいと考え、本研修への応募を決意しました。
研修1日目: Youth Pulseオープニングセレモニーへの参加
8月2日(日)、研修1日目は「Youth Pulse 2026」のオープニングセレモニーに参加しました。Youth Pulseは、China Daily(中国日報)が主催し、ICUAが学術的助言を行う5日間の国際的な文化交流・教育プログラムです。世界各国の青年が集まり、スピーチやディスカッションなどを通して、文化や持続可能な未来について学び合います。本研修の参加者は、各国の代表者として参加しました。
セレモニーでは、UNESCO Chair in Comparative EducationのMark Bray氏によるスピーチがありました。その中で語られた「文化は、戦争のない世界へとつながる架け橋である」という言葉に、強く心を動かされました。これまで無形文化遺産教育に取り組んできた自分が、今回ここに来た意味を改めて感じた瞬間でした。
セレモニーの最後には、フラッグパレードが行われました。参加者の出身国・地域のを描いたフラッグを手にした青年たちが、次々と壇上に上がっていきました。そして、最後の方で「JAPAN!」という声とともに掲げられた旗を見て、驚きました。そこには、なんと私の生徒が描いた「おにぎり」の絵が使われていたのです。その瞬間、これまで生徒たちと取り組んできた活動がこのような形で世界につながっていることを実感し、思わず涙が出そうになるほど感動しました。「今まで取り組んできて本当によかった」と心から思った瞬間でした。

オープニングセレモニーで使われたフラッグ(JAPAN : Onigiri Presentation 生徒作品より)
この日のドレスコードは各国の民族衣装だったため、セレモニー終了後は、参加者同士で記念撮影を楽しむ姿が会場の各所で見られました。私も浴衣を着て参加しました。参加者の大半が女性だったこともあり、色とりどりの民族衣装を身にまとった皆さんの姿はとても華やかで、会場は明るく和やかな雰囲気に包まれていました。

ポスターセッション会場に展示された本校制作の「Washoku」ポスター(日本)
研修2日目 : 実践発表と分科会
8月3日(月)は、香港大学にて各国のICH教育の実践発表と分科会が行われました。テーマごとに教室が分かれ、私はトルコ、オマーン、韓国、ロシアの代表者と同じ分科会に参加しました。分科会の進行役はUNESCO 比較教育チェア(香港大学教授)のMark Bray氏が務め、終始和やかな雰囲気の中で進められました。
各国の代表者は、それぞれが実践してきたICH教育について20分間のプレゼンテーションを行いました。私も、これまで取り組んできた「和食」に関連した授業実践について、伝統食を学ぶことの大切さを強調しながら発表しました。その内容について、他の参加者の方々から大変好評をいただき、自分がこれまで取り組んできた実践が国や文化を越えて共有されたことを嬉しく感じました。
午後は各プレゼンテーションを見ての感想や意見をディスカッションしました。どのプロジェクトも周囲の理解・協力が必要であること、近隣諸国と協働で1つの課題に取り組むことがICH教育推進のカギになると認識しました。また、最近の学生たちは英語に慣れているため、その点においては協働学習がしやすくなった、という意見もありました。さらにICH教育は英語などの語学の授業のみならず、数学や家庭科等、あらゆる教科、分野に取り入れることもできる、といった点も新しい気づきでした。

午後の全体会 ―各グループの代表がプレゼンテーションの成果と学びを共有
その後、中国影絵劇のワークショップがあり、参加者はそれぞれ、自国・地域の特徴を表した影絵人形を制作しました。

ワークショップで中国影絵劇の人形作りを体験する参加者
研修3日目 : 基調講演、まとめと香港大学博物館見学
8月4日(火)は、学校における広東オペラの継承をはじめ、AIを活用した地域遺産教育、香港大学博物館の役割、自閉症の子どもたちによる伝統画、マレーシアの自然遺産教育、CIPP(Youth Innovation: Collaborating to Improve and Project our Planet)の青少年教育など、さまざまな立場からの実践を学びました。デジタル技術や創造的な学習、地域・自然との関わりなど、多様な方法でICH教育を実践できることを知り、ICH教育とESDのつながりについて考える機会となりました。
午後は、午前の講義を踏まえてグループディスカッションを行いました。ICH教育を進める上で、周囲の理解や協力、資金確保などが共通の課題として挙げられ、本校とも共通する点に共感しました。また、研修後も交流を続ける協働グループの設立、国際的な連携や教材開発等を支援するE4T Smart Education Platformの活用、ICH教育におけるICUA賞の部門について意見を出し合い、今後のICH教育の発展について考えました。
研修の最後に修了証が授与され、その後、香港大学内の博物館を見学しました。中国の伝統工芸品などを鑑賞した後には、懇親会も開かれ、参加者同士が研修で得た学びや今後の活動について語り合いました。
研修に参加して
まず、今回の研修に「日本」を代表して参加させていただけたことは、私にとって生涯の財産になると思います。このような貴重な機会をいただけたことを、大変ありがたく思っています。この研修を通して出会った参加者の方々も、それぞれの立場でICH教育を実践されていました。同じ思いを持って活動している仲間が世界にいることを知り、大きな励みとなりました。このご縁を大切にし、今後のICH教育の実践につなげていきたいと考えています。

研修会参加者一同(香港大学にて)
また、ICH教育を実践する中で、各国の参加者もそれぞれ同じような課題や悩みを抱えていることが分かりました。今後は、国境を越えて互いの実践を共有しながら、こうした課題の解決に向けて共に取り組んでいければと思います。
今回の研修を企画してくださったICUAの皆様、そして力強くサポートしてくださった日本のユネスコスクール事務局(ACCU)の皆様にも、心より感謝申し上げます。今回の研修を通して、これらの機関の活動についても深く知ることができました。今後もICH教育の実践を進める中で、学んだことや実践の成果について報告し、ご相談させていただきながら、活動を発展させていきたいと思います。
今回の貴重な学びと出会いを今後の実践に生かし、これからの日本におけるICH教育の充実に少しでも貢献できればと願っています。
DATA
| イベント名 | Teacher Professional Development Programme in ICH Education 2026 |
|---|---|
| 期間 | 2026年8月1日(土)~5日(水) |
| 会場 | 香港コンベンション・エキシビション・センター、香港大学 |
| 主催 | International Centre for UNESCO ASPnet(ICUA) |
| 参加者 | 各国代表22名 |