2025年10月14日、映画創造都市・山形市で開催された「第8回ユネスコ創造都市国内ネットワーク会議」。
会議と翌日のエクスカーションに参加された、次世代ユネスコ国内委員会の佐藤世壱さんによるレポートをお届けします。
会議本編にご関心のある方はこちらのYouthnoteコラムをご覧ください。
Youthnote「全11都市が山形に集結!ユネスコ創造都市ネットワーク会議 参加レポート ~地域の「独自性」を未来の原動力へ~」
「私にとってこの地は、文化が深く根づき、訪れるたびに新たな学びと出会いを与えてくれる特別な場所です。」
佐藤さんは山形への想いをそう語ります。
山形という都市が持つ創造と活気の源泉とその現在地に迫ったレポート全4編をどうぞお楽しみください。
【山形の鼓動①】序章:芋煮と映画と、新・香味庵クラブ〜山形の「活気」の源泉へ〜
皆様、こんにちは。 大分県臼杵市(ユネスコ食文化創造都市)出身、次世代ユネスコ国内委員会委員の佐藤世壱です。
第1編では、会議前夜の山形の「創造の現場」の熱気について取り上げます。
「活気」が生まれる場所 ― 新・香味庵クラブにて
会議の前日、私は「新・香味庵クラブ」を訪れました。ここは、山形国際ドキュメンタリー映画祭の期間中などに開かれる、映画関係者のための交流拠点です。
秋の夜長、会場は国内外から集まった映画関係者の方々で溢れかえっていました。名物の芋煮を囲み、あちらこちらで映画について熱く語り合う声が響きます。英語、日本語、そして様々な言語が混じり合い、国籍や立場を超えて「映画」という共通言語でつながる人々のエネルギーで会場が満たされていました。

山形名物芋煮
この空間こそまさに創造の賜物であり、山形という都市の活力を象徴する場であると、肌で感じ取ることができました。
副市長が語った「山形の強み」
そのような中、私は偶然にも山形市の井上副市長のお隣に座り、なぜ山形ではこれほどまでに熱心な国際交流が生まれるのか、その理由についてお話を伺うことができました。
井上副市長は、穏やかに 「これは、山形市だからこそ実行できるんです。例えば、東京のような大都市では、会場も広大で、人も分散してしまう。山形市の『コンパクトな規模』だからこそ、市街地中心部に映画館やこうした交流拠点が集まり、人と人との濃密な交流が生まれます」と教えてくれました。
この言葉は、私にとって大きな気づきを与えてくれるものでした。 「規模が小さいこと」は、時として弱みと捉えられがちです。しかし山形市は、それを「強み」へと転換し顔の見える距離感での濃密な国際交流を行っています。
この「地理的な」近さが、人と人との「心理的な」近さを生み出している。「新・香味庵クラブ」で目にした光景は、そのことを裏付けるものでした。

「新・香味庵クラブ」
理念という「設計図」― 文化創造都市基本計画に触れて
井上副市長のお話の背景には、山形市が掲げる「文化創造都市」としての明確な理念、いわば「設計図」が存在すると考えられます。
2017年に映画分野でユネスコ創造都市ネットワーク(UNESCO Creative Cities Network: UCCN)に加盟認定されたことを契機に、山形市は「山形市文化創造都市推進条例」(令和4年4月施行)を制定し、それに基づき「山形市文化創造都市推進基本計画」(令和5年1月策定)を進めています。
この計画の基本理念は、「様々な立場の人々がお互いに認め合い、協力しながら、地域の多彩な文化を継承し、創造性を活かして発展させ、その本質的な価値を高めるとともに、文化と他の分野との創造性を活かした連携により新しい価値を創出し、地域の活力と魅力を高め、それらの好循環により市民が豊かな心でより質の高い暮らしをすることができる持続的発展が可能なまちの形成」を目指すというものです。
私が注目したのは、この計画が単なる文化の「保護」に留まっていない点です。 計画では、「やまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)」(第3編で詳述)を核として、地域資産を磨き上げ、観光や産業など他分野と連携させて新たな価値を創造し、中心市街地の発展や地域経済の活性化につなげることが具体的に謳われています。(※出典:山形市公式ホームページ「山形市文化創造都市推進基本計画」)
「新・香味庵クラブ」の熱気は、こうした市の明確な意志、すなわち文化と他分野を連携させるという「設計図」に基づいた、具体的な実践の場であったと受け止めています。
副市長の言葉と、この基本計画。 その両方に触れ、山形市の強さの理由を垣間見ることができました。 コンパクトな都市規模という地理的条件と、文化をテコに新たな価値を生み出すという明確な理念。その両輪が噛み合っているからこそ、あの「新・香味庵クラブ」のような創造の「活気」が生まれ続けているのだと、改めて認識させられました。
第2編では山形の活気の理由をさらに探っていきます。山形の「中核」となっている存在、山形が世界に誇る「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」に注目し、そこに集うユースの力に迫ります。
(第2編へ続く)
【山形の鼓動②】なぜ人は山形に? 山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)とユースの力
第1編では、山形市の「新・香味庵クラブ」で私が肌で感じた、国内外の人々が交流する活気について触れました。
その活気を生み出す中核こそ、山形市が映画創造都市として世界に誇る「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」です。 本レポートでは、この映画祭、そしてそこに集うユースの力に迫っていきたいと思います。
街全体が「映画館」になる一週間
「山形国際ドキュメンタリー映画祭(Yamagata International Documentary Film Festival: YIDFF)」は、1989年に山形市制100周年を記念して始まり、今や「アジアで最初の国際ドキュメンタリー映画祭」として世界にその名を知られています。
今回(2025年)の映画祭では、世界各国から応募されたおよそ2,700本のドキュメンタリー作品の中から、厳選されたおよそ130点が上映されました。そして、この期間中に市内を訪れた観客はおよそ2万2,000人に上るということです。(出典:山形国際ドキュメンタリー映画祭 公式サイト)

第1編で触れた井上副市長のお話にあったように、山形市のコンパクトさが、この映画祭を単なる作品鑑賞の場に留めません。観客は上映会場から会場へ、歩いて移動する途中で映画関係者とすれ違い、「新・香味庵クラブ」のような交流拠点で議論を交わす。まさに「街全体が映画館」となるのです。
このYIDFFの存在こそ、山形市が2017年に「ユネスコ映画創造都市」に認定された大きな理由の1つです。

コラム:映画の街・山形が持つ「画になる力」
山形市と「映画」の関わりは、映画祭だけに留まりません。 市内に残る歴史的建造物、例えば「文翔館(旧山形県庁舎)」は、大正ロマンを感じさせる壮麗な佇まいから、大ヒット映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』のロケ地としても使用されました。

「文翔館(旧山形県庁舎)」
映画祭という文化と、文翔館のような歴史的資産。その両方が揃っていることが、「映画創造都市」である所以なのだと感じました。
創造の「次代」を育む、ユースの参画
私がこの映画祭で特に注目したのは、運営や企画にユースが積極的に参画している点です。 創造都市の活動は、それを次代に繋いでいく担い手がいなければ、文化の「鼓動」を保ち続けることはできません。山形市では、その実践が着実に行われていました。
1. ユースが描く映画祭の「顔」 ― 開催ポスター
その象徴的な例が、2025年の映画祭開催ポスターです。
このポスターデザインは、東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科3年生(当時)の66名によるコンペティションから選抜された戸島楓子(としま ふうこ)氏による作品です。
公式サイトでは、戸島氏によるデザインコンセプトとして、モチーフである「積み石」について紹介されています。積み石は「再現できない一瞬のかたち」であり、その「一度きりの儚さや緊張感は、ドキュメンタリー映画の本質と重なる」ものであると述べています。
さらに「積むという行為には、現実を見つめ、記録しようと するまなざしがある」とし、「その力強さをドキュメンタリー映画の象徴として視覚化した」と説明されていました 。

市のアイデンティティとも言える国際的な映画祭の「顔」を、ユースの新しい感性に託した。この決断は、山形市がユースを「文化創造の担い手」として信頼し、その力を引き出そうとしている姿勢であると感じました。
2. ユースが告げる「声」 ― 作品募集ポスター
先ほど紹介した開催ポスターだけでなく、映画祭のポスターとして、世界中から作品を公募するための作品募集ポスターがあります。こちらも同じく東北芸術工科大学のコンペティションにより佐々木駆(ささき かける)氏のデザインが選ばれました。
コンセプトは「声を上げる。その声に気づくこと。」。 赤いビジュアルは声を上げている人間と、鑑賞者の気づきや感動を表す感嘆符のダブルミーニングであると説明されています 。 「映画という目に見える形で主張する」 ことで「鑑賞者の気づきにつながる」 という、ドキュメンタリー映画の本質を捉えたデザインです。

作品募集によって集まった映画作品の冊子
3. 「観る目」を育てる多様なプログラム
ユースの参画は、デザインだけに留まりません。
一つは、映画祭期間中に集中して行われる「ドキュ山ユース」です。 これは、主に高校生・大学生が山形に滞在し、集中的に映画を鑑賞、議論し、映画制作者と交流するプログラムです。参加したユースは、世界トップレベルの作品と思想に触れ、自らの視野を広げる学びの機会を得ることができます。
さらに、映画祭の期間外にも「YIDFF高校生チーム『ドキュ山ユース』」が主体となり、ユースと映画がつながる活動が行われています。詳細は第3編で触れるのでぜひご笑覧ください。
YIDFFは、ただ作品を上映するだけのイベントではありません。 「ドキュ山ユース」でユースの観る目を育み、ポスターデザインをユースから発掘する。 このように山形では、映画文化そのものを継承しながら、新たな創造を生み出す土壌を耕し続けています。
第1編で触れた「新・香味庵クラブ」の活気も、こうした映画祭の中核としての役割と、そこに集うユースの力が重なり合うことで生み出されているのだと、改めて認識しました。
さて、YIDFFという中核が生み出す創造のエネルギーは、2年に一度の祭典の期間だけに留まるものではありません。 そのエネルギーを日常的に街に展開し、市民の創造活動を支える新たな拠点が、山形市に誕生しました。
次回第3編では、エクスカーションで訪問した「創造拠点」である「Q1(やまがたクリエイティブシティセンターQ1)」について、詳しくレポートしていきます。
(第3編へ続く)
【山形の鼓動③】:「問い(Q)」からはじまる創造拠点 ―「 クリエイティブと産業を暮らしでつなぐ」Q1(キューイチ)の秘密〜
第2編では、「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」が「ドキュ山ユース」の活動などを通じて、いかに次代の創造の担い手を育てているかに触れました。
第3編では、「やまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)」というユースが映画祭の期間外で活動するための拠点について紹介します。
UCCN国内会議の翌日、エクスカーションとして山形の創造拠点の中心であるQ1を訪問しました。Q1は、その名の通りかつての山形市立第一小学校の校舎をリノベーションして作られた文化施設です。

Q1とは何か ― 「問い」と「共創」の拠点
「Q1(キューイチ)」という名前の由来は、①市民にとって学びの記憶でありシンボルである「旧一小」への誇りと愛着を受け継ぐこと、② 「Q1」=「問いのはじまりの記号(Question 1)」を表すものです。

Q1は「問いつづけるという営みが活発に行われゆく場所」として位置づけられています。 「映画をはじめ音楽やアート、デザイン、伝統工芸、食文化など、さまざまな分野において優れた地域資産をもつ創造都市やまがたの共創プラットフォーム」であり、多様な人々が出会い、問いを立て、新たな価値を生み出す場所です。
「問いからはじまるクリエイティブ運動」
エクスカーションでは、Q1が設立されるまでのプロセスこそが山形の創造性の核心であることを学びました。
2017年の「ユネスコ創造都市ネットワーク」加盟を機に、山形市は「旧一小」を再整備する事業を開始しました。 しかし、この事業は行政が一方的に「設計図」を描いて進めるものではありませんでした。
2019年度から始まった活用実験フェーズでは、テナント運営のトライアルと並行し、有識者や市民を交えてのクリエイティブ会議などが実施されました。 そこで「やまがたの創造性とは何か」「その拠点はどのような姿であるべきか」という本質的な問いと対話を、徹底的に積み重ねたのです。
こうした拠点の姿を共に描き出すプロセスそのものを事業に取り込み、2021年度の整備フェーズを経て、2022年9月に本格始動しました。 私たちがエクスカーションで見たのは、単なるリノベーションされた建物ではなく、こうした問いと対話の積み重ねによって生まれた「成果」なのです。

校舎元々の躯体の姿を活用する空間デザイン
Q1を動かす「仕組み」 ― 創造を誘発する運営体制
Q1の強みは、歴史ある建造物だけではありません。運営の仕組みこそが、創造性を生み出す鍵となっていました。
エクスカーションでは、具体的な運営体制について詳しく聞くことができました。 山形市(所有者)から施設を借り受けた「株式会社Q1」が、管理運営を担うとともに、「創造都市推進に関する業務委託」を受け、講習会やワークショップの企画・実施も行っています。 同時に、集まったテナントにスペースをサブリース(転貸)し、各テナントが自ら「店舗運営」「イベント開催」を担います。 さらに東北芸術工科大学も情報提供などを通じて連携しており、産官学でつながり合いながら運営体制が構築されていました。

野外イベントスペースにもなっている校舎の中庭
「創造性を産業へ」― Q1が生み出す具体的な価値
では器と仕組みの融合によって具体的に何が生み出されているのでしょうか。 その答えは、山形市が掲げる「クリエイティブと産業を暮らしでつなぐ」という目標が、着実に達成されていることを示す、いくつかの実績に見て取ることができます。
Q1は、芸術家やクリエイターに限らず、市民が訪れる「イノベーション拠点」として、新しいビジネスや産業を生み出すことを目指し運営されています。
1.「創造の集積」の実現
かつての教室空間は、現在、多様な創造の担い手が集まっています。資料によれば、テナント入居率は100%(全24部屋)、シェアオフィスも75%(入居9区画)という高い入居率を誇ります。 入居者はデザイナーやアーティスト、NPO法人など多岐にわたります。
2.「数値」として表れる波及効果
この集積がもたらした効果は、具体的な成果として街に波及しています。
- 来館者数: 2022年9月の開館から約3年間で、累計500,234人。
- 新たな価値の創出: Q1がきっかけで生まれたイベントや商品、サービスなどは、128件(2025年8月末時点)。
- 中心市街地への貢献: 2024年度の中心市街地歩行者通行量は25,084人と、過去最高を記録。
中でも「Q1がきっかけで生まれた新たな価値が128件」という数値は、Q1が単なる文化施設にとどまらず、山形市のマニフェストに掲げられる「生活や産業に新たな価値を生み出す」創造拠点として、実際に機能していることを示す1つの指標であると受け止めることができます。

多くのテナントが入っている廊下
このQ1の在り方は、私自身の故郷であり、食文化創造都市である大分県臼杵市にとって、多くの示唆をもらえる貴重な事例です。 創造拠点がどのように構想され、どのような問いと対話のプロセスを経て運営されることで、街に「日常的な創造性」を生み出し、具体的な活力や成果として可視化されるのか。その現在地を具体的に学ぶ機会を得られたことは、私の活動にとって、非常に大きな糧となっています。
次回、最終編となる第4編では、この山形での学びを「自分ごと」としてさらに深め、故郷・臼杵の未来、そして自身の活動の可能性と紐付けて考察していきたいと思います。
(第4編へ続く)
DATA
| イベント名 | 第8回ユネスコ創造都市国内ネットワーク会議 及び エクスカーション |
|---|---|
| 日時 | 2025年10月13日(月)~15日(水) |
| 場所 | 山形県山形市 |
| 執筆 | 次世代ユネスコ国内委員会(2025年10月現在) 佐藤世壱 |
| 公開日 | 第1編:2026/3/24 第2編:2026/3/25 第3編:2026/3/26 |
