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「文学による心豊かなまちづくり」 岡山市で開催された「ユネスコ文学創造都市おかやま国際会議」参加レポート

1. はじめに

みなさん、こんにちは。 大分県臼杵市(ユネスコ食文化創造都市)出身、次世代ユネスコ国内委員会委員の佐藤世壱です。

2026年2月9日から12日にかけて、岡山市で開催された「文学創造都市おかやま国際会議」に参加しました。

岡山国際会議のブースにて次世代ユネスコ国内委員会の紹介:長澤パティ明寿、佐藤世壱

岡山市は2023年10月に、日本で初めてユネスコ創造都市ネットワークの「文学分野」に認定された都市です。 今回の会議には、エディンバラ(英国)、シアトル(米国)、メルボルン(オーストラリア)、ダニーデン(ニュージーランド)、富川(韓国)、コーリコード(インド)から、文学創造都市の代表者が集まりました。

文学創造都市担当者会議の様子

2.「8」で紐解く、岡山と文学の深いルーツ

本会議の分科会では、岡山市文化振興課の流尾正亮さんから岡山と文学の歴史的背景についてのプレゼンテーションが行われました。漢字の「八」は「末広がり」を意味し、発展や繁栄を象徴する数として親しまれています。この「8」という数字を切り口に、岡山に文学の土壌が深く根付いていることを示す「8つの事実」が紹介されました。

提供:岡山市文化振興課

①日本で最も広く親しまれる昔話の故郷:桃から生まれた男の子が動物たちと共に鬼ヶ島へ行くという、だれもが知る昔話「桃太郎」のルーツの1つとして知られています。

②8世紀の歌集に地名が登場:8世紀に編纂された日本最古の和歌集『万葉集』(約4,500首を収録)に、すでに岡山のエリア(吉備・児島)が登場しており、古くから言葉による表現が行われていた歴史を垣間見ることができます。

③18世紀の私設図書館の存在:18世紀には、ある商人が「桂義堂」という私設図書館を設立し、3万冊以上もの書物を所蔵していたそうです。

④寄付による市立図書館の設立:大正時代の1916年、実業家である山本唯三郎さんからの寄付によって、岡山市に初めての市立図書館が建てられました。

⑤40年続く文学賞の歴史:昭和を代表する岡山市出身の児童文学作家・坪田譲治を記念した「坪田譲治文学賞」や「市民の童話賞」が、40年間継続して開催されています。

⑥すべての公立学校に司書を配置:市内のすべての公立小中学校(125校)に125名の学校司書が配置され、子どもたちの読書環境を支える体制が整えられています。

⑦全国トップクラスの図書館活動:岡山県立図書館は、個人への本の貸出冊数が約114万冊に上り、全国の都道府県立図書館の中で5年連続1位(日本図書館協会)となるなど、市民の日常に本が自然に溶け込んでいます。

⑧数多くの岡山ゆかりの作家たち:小川洋子さん、岡崎隼人さん、天川栄人さん、村中李衣さんなど、岡山から生まれ、あるいは岡山を拠点にする優れた作家たちが活躍していることも、この街の文学的な豊かさを示しています。

3. 日常に本が溶け込む、「8」の仕掛けで彩られる現在の岡山

歴史的な背景だけでなく、現在進行形で進められている「8つの取り組み」についても発表がありました。まちと人のつながりを豊かにしていくような、さまざまな仕掛けが展開されています。

①おかやま文学フェスティバル:表町商店街を歩行者天国にして行う「表町ブックストリート」や、自主制作本を展示販売する「ZINEスタジアム」など、市民参加型の大規模イベントが開催され、多くの人で賑わいを見せています。

提供:岡山市文化振興課

提供:岡山市文化振興課

②文芸マガジン「うったて」の発行:2025年9月に創刊されたフリーペーパーで、岡山の歴史や文化、人々の日常にある小さな物語を掬い上げて発信し、親しまれています。

【参考リンク】
文学創造都市おかやま発「ちいさな物語」マガジン「うったて」(公式サイト)
※「うったて」のコンセプトや最新号について、ご覧いただけます。

③ライター・イン・レジデンスとワークショップ:作家の方(乗代雄介氏など)を岡山にお招きし、滞在しながら創作活動を行っていただくと同時に、市民向けのワークショップを実施する交流の場が設けられています。

提供:岡山市文化振興課

④ネットワーク拡大のフレームワーク策定:文学都市のロゴ使用許可や、コラボレーションによる資金支援など、民間や団体の自発的な活動を後押しする仕組みが整備されています。

⑤ユース世代の参加:高校生による地域資源のマップ作成や、大学生による福祉と文学をつなぐ取り組みなど、ユース世代の感性が活かされたプロジェクトが推進されています。

⑥公民館主導の地域活動:市内の公民館が地域の方々と連携し、身近な場所で文学や学びのイベントが展開されています。

提供:岡山市文化振興課

⑦サイレント・ブック・クラブの開催:カフェなどのシェアスペースに集まり、それぞれが持ち寄った本を静かに「黙読」して、同じ空間と時間を心地よく共有するという、新しい読書の形が実践されています。

提供:岡山市文化振興課

⑧創造都市ネットワークとの連携:韓国のディアスポラ文学賞への参加や、各国のサブネットワーク会議への出席など、国境を越えたネットワークとの連携も少しずつ深めているそうです。

提供:岡山市文化振興課

【参考リンク】
文学創造都市おかやま プロモーション動画(YouTube)

※ 岡山市が日本初のユネスコ「文学創造都市」に認定された背景や、「文学による心豊かなまちづくり」に向けた数々の取り組みについては、こちらの動画で詳しく紹介されています。

4. 窓ガラスの詩、海を渡る手紙 世界の文学都市が教えてくれたこと

海外の都市からの発表でも、各国の豊かな実践が共有されました。

世界初の文学創造都市である英国・エディンバラのハリエット・マクミランさんからは、毎年16万人もの人々が参加する「国際ブックフェスティバル」の様子や、日常生活に文学を溶け込ませるため、オフィスや歴史的建造物の窓ガラスに作家の言葉を掲示する工夫が報告されました。マクミランさんの「文学分野への加盟は、世界中の文学的文脈とつながるパスポート」という言葉は、他都市との協働の意義を伝えるものでした。

米国・シアトルからは、市内に62もの独立系書店と33の図書館が存在し、豊かな読書環境が市民の生活を支えているという報告がありました。 また、ニュージーランド・ダニーデンのニッキー・ペイジさんの発表では、手書きの詩を他都市と交換し合う「Poetry Pen Pals(詩のペンパル)」という取り組みが紹介されました。さらに、「岡山とダニーデンの子どもたちが自国語で詩を書き、お互いに翻訳し合うことで新しい友達を作ろう」という提案もあり、国境を越えて言葉を交わし合うプロジェクトが生み出される瞬間を目の当たりにしました。

5. 本を武器に、街の魅力を再発見 岡山で躍動するユース!

地元岡山のユース世代の活動も紹介されました。 山陽学園高等学校・図書委員会は、「本を武器に街を盛り上げる」という思いから、学校周辺(門田屋敷界隈)の歴史や偉人、旧跡を自分たちの足で調査し、手描きのイラストを交えた「かどたワールドおさんぽマップ」を作成し、地域を盛り上げるプロジェクトを行っています。

また、岡山がユネスコ創造都市に認定されたことで活動を発表する機会が増え、地域の方々が応援してくれるようになったという声もありました。国際交流や地域との関わりが、ユースの活動の幅を広げていることがわかります。

6. 特別対談「創作の原風景」と、次なるステージへ

シンポジウムの第2部では、岡山市出身の芥川賞作家・小川洋子さんと、坪田譲治文学賞受賞作家・中脇初枝さんによる特別対談「創作の原風景」が行われました。 対談の中では、物語が持っている包容力や、動物の中で唯一、言語を巧みに扱うことができる人間ならではの創造性、そして言葉そのものが持つ創造性について深く語られました。お二人のルーツに触れることで、文学が人間の心といかに結びついているのかを見つめ直す時間となりました。

7. この繋がりを、もっと先へ 2027年、アジア初のサブネットワーク会議が岡山で

こうした活動は、次の舞台へと引き継がれていきます。2027年11月には、世界63の文学創造都市から約100名が集結する「サブネットワーク会議」が、アジア地域で初めて岡山市で開催されることが決定しています。今回の会議で共有された実践や繋がりが、2027年に向けてどのように育まれていくのか、これからの展開が楽しみです。

8. おわりに

会議の期間中、おかやま文学フェスティバルの実行委員長の根木慶太郎さんとお話しする機会をいただきました。根木さんは、「文学は世界を『奥深く』してくれる、文学により心豊かなまちづくりをしていきたい」と穏やかにおっしゃっていました。

文学は、足早に過ぎていく日々の営みにふと立ち止まる余白を生み、見慣れた風景に新たな価値や多角的な視点をもたらす力があることを、改めて実感しました。今回の国際会議は、こうした文学の創造性を育んでいる各都市の代表者と交流を深め、繋がる、意義深い機会となりました。

DATA
イベント名

ユネスコ文学創造都市おかやま国際会議

日時

2026年2月9日(月)~12日(木)

場所

岡山県岡山市

執筆

次世代ユネスコ国内委員会(2026年2月現在)佐藤世壱

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