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「問い」が未来を創る。ユネスコデザイン創造都市・旭川市のまちづくりとは? 行政×地域×ユースが実践する「デザイン思考」

大分県臼杵市(ユネスコ食文化創造都市)出身、次世代ユネスコ国内委員会委員の佐藤世壱です。

その土地固有の文化を「創造性」の源泉として捉え、次代につながる発展の原動力とする「ユネスコ創造都市ネットワーク(UNESCO Creative Cities Network:以下UCCN)」。私は高校時代から地元の食文化を通じた活動に関わってまいりましたが、今回、私がこれまで取り組んできたアプローチとは全く異なる視点でまちづくりを進められている北海道・旭川市から、多くのことを学ばせていただく機会を得ました。

社会課題に「問いを中心としたデザイン思考」で向き合う旭川市。その背景にある哲学や、行政・地域・ユースが一丸となって進めるまちづくりの形を、少しでも吸収したいと思い、私は旭川市に向かいました。

筆者が搭乗した航空機からの旭川市上空写真

家具の街から「デザイン創造都市」へ:歴史を土台に行政と地域が挑む新たな形

旭川市は2019年、UCCNの「デザイン」分野で創造都市に加盟されました。そのルーツには、100年以上前の開拓時代から続く、豊かな森林資源と木工・家具産業の歴史があります。その背景について旭川市産業振興課の宮城秀之さんに、教えていただきました。

旭川市で家具産業が発展した背景には、屯田兵が開拓して農業を始めたという歴史があります。しかし、農業だけでは天候に左右され安定しないため、安定した産業として木工が生まれました。そこにちょうど第七師団が来て、技術とモノが一緒に入ってきたことで、新しい産業として形になってきたのが旭川家具でした。

旭川市産業振興課ミーティングルームの旭川家具

その後、地元の家具メーカーの創業者がドイツでデザインを学び、その思想を旭川市に持ち帰ったことが、この地に高いデザイン性が根付いた契機となりました。

お話を伺う中で特に印象的だったのは、旭川市の考える「デザイン」が、単なる色や形のような表面的に留まらないという点でした。

「デザインは、特定の産業を成長させるための手段ではなく、都市としてどのような幸せを増やしていくのかを問い続けるための姿勢そのものだと捉えています」

宮城さんの言葉に触れ、私は「デザイン」という言葉が持つ奥深さに、思わず引き込まれていました。さらに、旭川市の考えるデザインの本質について、宮城さんは次のように語ります。

旭川市産業振興課の後藤さんと宮城さんと筆者

「旭川市が考えるデザインとは、見た目や形を整えることではなく、地域や暮らしの中にある課題を整理し、関係者と共有しながら、よりよい解決策を形にしていくための行為です。行政が事業や施策を進める際にも、これまでの前例や一律のやり方をそのまま適用するのではなく、地域の実情や現場の声を踏まえ、進め方そのものを考え直す必要が生じます。そのため旭川市では、デザインを、課題を発見し、関係者と共有し、仕組みとして実装していくための思考法と位置づけています。行政、産業、教育、文化、市民の暮らしを横断し、時代に応じて更新され続けるプロセス全体を含めてデザインと捉えています」

宮城さんのお話をお聞きし、デザインという柔軟な枠組みを用いて、これから起こる人口減少や産業構造の変化に対して、しなやかに対応できる土台を築くことを旭川市は実践されていると感じました。そして、自然、産業、暮らし、人の関係性を深く見つめ直していくことこそが、旭川市の考えるデザインの本質だと学びました。

旭川市の街の中心、旭川駅

行政システムへの「デザイン思考」の実装と、地域をつなぐ「デザインの森」

旭川市の他にはない独自性は、この「デザイン思考」を市役所という行政の場そのものに実装しようと挑戦されていることです。特許庁が提唱する「デザイン経営」の考え方を取り入れ、従来の前例踏襲ではなく、課題設定の段階から関係者と共有し、小さく試して改善を繰り返す「プロトタイピング」の手法を導入しています。

【参考リンク】▼特許庁「デザイン経営」webページ

さらに、外部からチーフデザインプロデューサーを招き、市の広報物や名刺、庁舎内の案内に至るまで、統一された「デザインシステム」が構築されています。行政の場にデザインを取り入れ、まちづくり全体の共通言語にしていくという取り組みは、私にとって非常に新鮮でした。「街にデザインが浸透して、どう変わるかというのを示していくことが我々の使命」という力強い言葉から、行政としての強い覚悟と誇りを感じました。

【参考リンク】▼旭川市のデザインシステム・プロジェクト詳細(KESIKI 公式サイト)旭川市役所内に張り巡らされた案内表示や名刺など、統一された「デザインシステム」の制作プロセスや具体的な展開例については、プロジェクトを手掛けたKESIKI様のページで紹介されています。

また、旭川市は世界のUCCNの中でも独自の立ち位置を確立しています。昨年度のサブネットワーク会議で発表された「デザイン都市旭川宣言」では、「私たちは、社会的な存在である前に生態系の一部です」「全ての都市は例外なく自然の恵みの上に成り立っているのです」という、自然と社会の調和を訴える本質的なメッセージが発信されました。

この理念に基づき、宮城さんは、旭川市の姿勢を次のように語ります。

「社会と自然の関係をどう再構築するかが、これからの都市に共通する重要なテーマです。デザインの力を通じて、自然と向き合いながら地域資源を分断せずにつなぎ直すことで、都市としての独自性や新しい価値を育てていきたいと考えています」

「人も環境も健康で、食文化を楽しみ、次世代につなぐまち」を掲げる食文化創造都市・臼杵で育った私にとって、旭川市の掲げる理念は郷土の理念とも深く重なり、腑に落ちる学びの多いものでした。

【参考リンク】▼ デザイン都市旭川宣言(ユネスコ創造都市 旭川 公式サイト)旭川市が世界に向けて発信した「デザイン都市旭川宣言」の背景や、豊かな自然とデザインを融合させる構想については、こちらの公式サイトで詳しく紹介されています。

地域×ユースの共創:探究学習から生まれる「問い」とイノベーション

旭川市が未来を描く上で、最も重要なパートナーとして位置づけているのが「ユース(次世代)」です。今回の訪問では、旭川市内の高校で実施された「探究学習」の現場に参加しました。

この探究学習では、デザイン思考を用いた実践的なワークショップが行われました。特筆すべきは、通常こうした活動は教育委員会が主導するものと思っていたのですが、これが「産業振興」の一事業として展開されている点です。

現場では、旭川市立大学と慶應義塾大学の学生がファシリテーターとなり、高校生の日常や社会に対する「問いづくり」を支援しました。机の上には、グループごとに寄せられた色とりどりの付箋が貼られた模造紙が広がり、高校生と大学生が身を乗り出して議論に没頭する。そんな「斜めの関係」を通じて互いの思考を高め合う風景がそこにはありました。

私も慶應義塾大学の学生の一員として、日常の課題を発見し解決策を練り上げるプロセスを共に体験しましたが、世代を超えた対話から新たな視点が生まれる瞬間に、この取り組みの価値を強く感じました。

具体的には「海の豊かさを守る」といった環境問題から、「地域における高校の役割の創出」といった自分たちの存在意義を問うものまで、多岐にわたるテーマで議論が白熱しました。また、大学生と高校生が交流したことで授業時間後、高校生が「この案を事業化したい」と先生に伝える姿も見られ、頼もしさを感じました。

探究学習の様子

この熱気あふれる探究学習の場において、旭川ユネスコ協会の林朋子さんにお会いすることができました。創造都市事業のさらなる発展のために、旭川創造都市協議会内に「ユース部門」が立ち上がり、林さんがその運営を担っています。行政の力だけでなく、地域に深く根ざして活動を展開しているユネスコ協会の尽力があるからこそ、旭川市の事業がユースをこれほどまでに巻き込み、活気を帯びているのだと痛感しました。

旭川ユネスコ協会の林さん

行政×ユース:まちづくりの仲間としての期待

旭川市におけるユースの活動について、宮城さんは「活気がある街って、若者が生き生きしている街ですよね」と語りました。

   

「若者の視点は、既存の価値観や前提を問い直す力を持っています。旭川市では、まちなかキャンパスや探究学習に加え、起業家育成プログラムなどを通じて、高校生や大学生が地域課題に向き合い、自ら問いを立て、行動につなげる機会を設けています。日常の暮らしや通学、地域での体験から生まれる素朴な疑問や違和感は、行政や地域が見落としがちな視点を含んでいます。そうした問いを起点に、学びや実践、事業化を意識した取組へとつなげることで、政策や事業の考え方が更新され、まちづくりに新しい視点が加わっていきます」

【参考リンク】▼未来の起業家を育てる起業体験等プログラムYouthnote「ユースの参画が創造性の種を蒔く 〜まちなかキャンパス(北海道旭川市)を体感して〜」(ユネスコ未来共創プラットフォームポータルサイト)

お話を伺い、旭川市ではユースの存在そのものが、地域に新しい視点をもたらす大切な要素として捉えられているのだと学びました。ユースがまちづくりに関わることで、都市は「住むところ」から「共につくるもの」へと少しずつ変わっていきます。その経験が将来の産業振興に関する活動につながり、持続可能な都市を支える人材となっていくのだと感じました。

宮城さんの「ユースは、一緒にまちづくりを行う仲間である」という、ユースへの信頼する気持ちや、温かな姿勢に触れ、私自身もユースの一人として、地域とどのように関わっていくべきか、改めて背中を押されたような思いです。

日常の「問い」が日々の豊かさをデザインする

今回の訪問を通して、私の心に最も深く刺さったのは「日常に問いを生むことにより、日々の豊かさを創造していく」というメッセージでした。

旭川市街の朝の散歩で撮影した石狩川の支流:忠別川

デザイン思考の取り組みは、高校生だけでなく、小学生向けの授業でも実践されているそうです。例えば、小学生の授業で、コップはどうしてこの形なのかという問いを起点として、デザインについて考える授業があります。なぜ、取っ手があるのか、なぜこの高さなのかなど、特定の形や大きさから、なぜこの形になのかを考え、普段からデザインに目を向ける力を養っていくことで、より早い段階からデザイン思考に触れる機会をつくっています。

宮城さんは最後に次のように語ってくださいました。

「これまでの実践や対話を通じて感じているのは、身の回りの小さな違和感や疑問こそが、まちづくりの出発点になるということです。大きな正解や完成形を最初から求める必要はありません。日常の中で感じた『なぜだろう』『こうだったらいいのに』という思いを問いとして持ち続けることが、創造的な行動につながります。デザインとは、答えを示すことではなく、より良い問いを立て続けることです。その姿勢が、地域や社会を少しずつ変えていく力になると考えています」

旭川市産業振興課

結びに:学ばせていただいた視点を未来へ

旭川市での貴重な経験を通して、私は「デザイン」とは単なる課題の解決策ではなく、日々の豊かさを創造していくための「ものの見方」そのものだと理解することができました。日常の小さな違和感を見過ごさず、自ら問いを生み出し続けること。それこそが、環境の変化にしなやかに適応し、豊かな地域を作っていくための第一歩だと学びました。

温かく迎え入れてくださり、たくさんの貴重な学びを与えてくださった旭川市のみなさんありがとうございました。

DATA
取材日

2026年2月5日~7日

場所

北海道旭川市

執筆

次世代ユネスコ国内委員会(2026年2月現在)佐藤世壱

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